ここに僕の自由はない。
そもそも『自由』という言葉すら僕は知らない。何も知らない。見たことすらも。
世界が優しく美しいものであることも、醜く残酷であることも。
薄暗い間接灯の明かりと、不気味な機械音に包まれた部屋。
白衣の人間が出入りするだけの空間。
ここが、僕の世界。
そしてある日、世界は開かれた。
「共に行くか?―――君が世界を望むなら」
硬質な仮面に表情は分からない。
差し込む光の中の金髪が眩しくて、僕は眼を細めた。
「『せかい』とは、なんですか」
少年の問い掛けに、仮面の男は静かに笑う。
「君が見て感じた全てが、『世界』になる」
その出会いは、神様のいたずら。
そしてその運命すら、神様のきまぐれ。
ここに僕の自由はなかった。
『自由』という言葉すら知らなかった僕は、哀れなほど真っ白で脆弱で、何も見えない真っ黒な世界の中にいた。
僕は何も知らなかった。
世界が優しく美しいものであることも、醜く残酷であることも。
世界は、ただかみさまの箱庭だった。
そして少年は、その手を引いたものの色に染まるだけ。