「あ、シン。ちょっと助けて」
「へ?」
廊下を歩いていたら、先輩がそう声を掛けてきた。
「メニュー、それだけでいいんですか?」
「うん、ありがとう。助かった」
「大げさですよ。これくらい別に…」
「とか言って嬉しいくせにねーシン?」
ただいまファーストフードで絶賛ごはん中。
何故かおまけでくっついて来たルナマリアに茶化され、シンはムッとした。
「昨日パーツとか色々買って、お金なくなってたの忘れてた」
突然でごめんねーあははー。ハンバーガーをぱふっと口にしながらキラは笑う。
ルナマリアは首をかしげた。
「アスランとかに借りようとは思わなかったんですか?」
「無理だね」
即答し、ずー…とジュースをすする。
『無理』?…駄目だった、じゃなくて?
「あの人達たまに金銭感覚おかしいから」
シンとルナマリアは瞬きを繰り返した。
「ごはん代だけ貸してって言っても、いくら渡して来るか分からないし」
この前なんてさぁ。
キラは辟易したように息を付いた。
「今現金の持ち合わせがないからコレ使えって、カード放り投げてきたこともあったんだよ。しかもサインレスだから、ある意味では上限なし。使いたい放題」
つまんだポテトがだらりと力なく垂れた。
「基本的にお金に困ったこと無いんだろうね」
「値段も見ないとか?」
「うん。物欲がないだけマシだけど」
欲しいものを諦めるという経験などないんだろう。値札を見て肩を落とすこともザラなシンにとっては、羨ましいというより腹立たしい限りだ。坊っちゃんどもめ。
けれども続くキラの言葉に、ふっと気持ちが浮上した。
「そういう意味じゃ、皆といる方がその辺りは気楽だね」
小さなテーブルを囲んで、食べ馴れたファーストフードの味を楽しむキラ。
一般家庭で育った彼にとっては、こういう不特定多数の人々が流れるように行き来する場所の方が、落ち着くようだった。
「じゃあ今度、どこかに行きませんか」
一緒に。
な?と横を振り向けば、シンの提案にルナマリアもしきりに頷いている。
「いいの?」
「はい!アスラン達とじゃ行かないようなところ、色々教えてあげますよ」
「ありがと、シン」
思わぬ共通点を見付けて、顔が緩む。
先輩達よりも一歩リード出来ることがあるのは気分がいい。
ガールズトークさながらに、花を飛ばして喋り始めたキラとルナマリアを見ながら、シンは顔を綻ばせた。
後日。
最近はシン達後輩組とばかり出掛けていることに、アスラン達が不満そうに問い質しているのを目にして、キラの腕を引っ張り舌を出すシンやルナマリアの姿があったとか。