「…あ。…―――渡り鳥」

海辺に栄えた街の遊歩道。

キラと並んで歩いてたら、隣からそんな呟きがぽつりと聞こえた。思わず止まった歩みとキラの視線に倣い、アスランもまたその先を追う。

温かな太陽に影を射して空を飛ぶ幾羽もの鳥。

「この辺りの海も、鳥が飛ぶようになったんだね」
「そうだな…」

眩しさも合わさって、アスランは目を細めた。

不吉な空に敏感な動物達は、その姿を消していた現実。それが戻って来たということは、随分と世界は平和に近付いたのだろう。

「こういう日常が、一番幸福だな」
「うん。ずっとその日が来ればいいなって思ってたよ。…あの時は、想像しかできなかったけど」

こんな風にまた二人で、何気ない日常を歩けることを。幼年時代の思い出のような、そんな日々を切に願った時もあったのだ。

「僕は、何かできたかな」

この国に。この世界に。
今のこの、未来に続く道の中で。
キラはいつからか、そう考え込む時間を増やしていった。

「お前は…、…シンと…会っただろう?」
「え…」
「会って話して…、それがどれだけ奇跡みたいなことか、分かってないのか?」

あんなにも、殺伐とした関係だった二人が。
今は互いに笑い合えるコミュニティを築けた。

「シンとは…、一緒に花を植えようって誓ったけど…。…どうなのかな」

あの、慰霊碑の前での誓い。
何度吹き飛ばされても、また花を植えると。
それをキラの口から告げられた時。
シン・アスカの中で確かに何かが赦された。
…アスランには、そう思えたから。

だから多分。
少なくとも一人の人間の涙を昇華した。未来の片鱗を見せてあげたのだ。その、未来を担う一人の少年に。

「シンがお前の言葉に頷いた。あいつの性格を知ってる俺としては、それだけで感心する」

そして、…これはアスランだけの勝手な思い込みかもしれないが、あんなにも苛烈な人間を手懐けた。懐かせた。

互いに戸惑いながらも、良好な関係へと進みつつある今。シンにとっては、キラのような穏やかな人間が傍にいるのは、プラスになっているのだろう。

きっと、憧れの人になる、という意味でも。
…言ってはやらないが。

キラに懐き始めたシンと、戸惑いながらもシンに笑いかけるキラ。それを思う時、アスランは少々複雑な気分になる。

「アスラン?どうかした?」
「…いや。お前がシンに教えてやれることも、きっと多いと思う」

お前だから教えられること。シンが耳を傾けることもある、と言ってやりたかったが、やっぱり複雑な気がしてアスランは口をつぐんだ。

無意識に寄ってしまった眉に、キラは首を傾げる。それを振り切るように、アスランは止まっていた歩みを再開した。

不思議そうにしながらも、アスランがくれた慰めの言葉に、キラは素直に「ありがとう」と笑い、親友の横に並ぶ。

歩幅を合わせ、二人は歩き出した。


空には鳥が飛び、何処とも知れぬ目的地に向かって羽を広げ渡って行く。


アスラン、と。
名前を呼ばれ。隣を見やる。

「僕にもさ、やりたいことがあるんだ」

キラは眩しい空を、再び見上げた。
遠い遠い空を見て。
近くて、遠い。未来を、眼に映して、

「いつか、沢山の白い鳥を飛ばそうと思う」
「鳥?」
「うん。…知ってる?…白い鳥を飛ばした数だけ、幸せになれる人が増えるんだってさ」
「どこのジンクスだ」
「夢があっていいじゃない?」

誰の影響かは分からない。けれどキラは本気とも冗談とも知れない未来の話を語る。嬉しそうに。心から願う様が分かるほど。

「アスランは僕にトリィをくれた。嬉しかった。だから今度は僕が、」


僕が、約束の鳥を飛ばそうと思う。


あまりに楽しそうに笑うから、呆れるよりも受け入れてしまった。その夢見がちなビジョンにすら。


「お前なら、できるさ」


この絶え間ない青空に。
…―――――自由と平和の翼を。いつか。


そうして笑う親友の笑顔こそが、今、確かに見える、俺達の未来予想図。



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