主に愛される屋敷の庭は花に溢れ、色も香りも光り輝いていた。
今日も砂時計の惑星の天候は穏やかで、花たちは喜びにその身体を揺らす。

ふと、緑の庭に白い影がそっと紛れた。
つい先日から、客人として庭に姿を見せるようになった、淡い色を纏う少年。

少年の眼はいつも憂いに満ちていて、いつも泣きそうな幼い顔を空に向けていた。
それを見守るのは、静かに風に揺れる花々。
そうして花たちは、その少年が何かに迷いながら必死に前に進もうとしているのを知る。

けれど花たちは、慰めの言葉もなく静かに揺れるだけ。ただ、その瞳が少しでも和らぐように。癒されますようにと。


今日もまた変わらずに、少年は庭でただ一人俯き、遠くを思う。

優しい指先で花びらに触れ、そして離れていく。その眼は透き通るように揺れ、朝露に光る葉のように温かな陽光を閉じ込めた。

「僕は…」

か細い呟きは溶けて消えていく。
傍には、声なき花たちだけがある。


もうすぐ雨の時間です、と優しい瞳の少女が告げた。この庭の主人。花たちの主。

少年と少女の姿は、そうして硝子の向こうに消えていった。


空から恵みの雨が降り注ぐ。
肥沃をもたらす筈の雫は、ただ物悲しく星の大地を濡らした。






時が流れ、この星も随分と騒がしくなり―――――やがて終わりを迎え。

それでもこの庭の花たちは、今日も静かに穏やかに、そこに咲き続けていた。


そよと風が吹き、カサリと小さな足音。
懐かしい白い影が一つ、色に満ち溢れた庭にやって来た。

「久しぶりだね」

誰に話し掛けたのかも分からぬ程に。小さくひっそりと。彼は語りかけた。
その表情を穏やかに綻ばせ、言葉は届いた。

少年は、とても綺麗な眼をして大地に立っていた。
真っ直ぐに背を伸ばし、哀しみではなく世界を愛しむように空を見上げる。


…―――ああ。もう、大丈夫。


花たちが揺れる。
さわさわと。安心したように。

少年はふっと、微笑んだ。

「ありがとう。また、お世話になるよ」

花が揺れて、少年を包み込む。
緑の香り。水の音。


わたしたちはいつも、ここにある。


誰かの、淡く、哀しい―――。
寂しく、そして澄んだ優しい記憶と共に。



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