「うん。いいんじゃない?」
「もー。またそれだけですか?」
試着室から出てきたルナマリアは、感想を求められて返ってきた、キラのその短すぎる一言に唇を尖らせた。
ある意味ではツワモノ発言をするキラの姿に、やっぱりまたそれだけなんだ…と、少し離れたところでシンは思った。
「え…、ダメかな」
「女の子を褒める時は、もっと誠意ある言葉じゃないと!ね?メイリン?」
「あ…私は別に…」
「ホントにいいと思ったから言ったんだけどな」
まだ他意のない笑顔がある分救われている。言葉には不満でも、その穏やかな笑顔に赤くなっているから。
「で、でもやっぱり、女の子はちゃんとした感想を聞きたいわけでですね」
「そう言えば、ラクスもむっとしてたっけ」
「ラクス様相手にもそれなんですか!?」
「う、うん」
迫るルナマリアに一歩引くキラ。
そりゃあ仕方がないな。大事なラクス・クライン相手にもこれなのだ。それ以外の人にまで気を遣えるとは思えない。
「もういいじゃん、ルナ。けなしてるわけじゃないんだしさぁ」
「そういう問題じゃないの!女の子二人が色々服を選んでるのに、それしかないのが寂しいの!」
もー、なんて呟きながら、ルナマリアは試着室に戻っていった。きょとんとしたままのキラに、妹はすみません、と頭を下げている。それから、また姉妹で他の服選びに行ってしまった。
男二人、ぽつんと取り残される。
「…とりあえず、追いかけましょうか?」
「そうだね」
ルナマリア達の姿を探して店内を歩く中、シンは隣の横顔をちろっと窺った。
相手を思って言葉を選ぶこの人にしては、あの言葉足らずは意外だ。
「もっと色々褒めるのかと思ってました」
「何て言ったらいいか、正直分からないんだよね」
「…まぁ、分かります…」
苦笑いするキラに、ちょっと同情する。
何でもいいじゃん、変わんないし、なんて口にして睨まれた覚えのあるシンには、キラの気持ちがよーく分かる。
「それで、他の人に聞いてみたら、ああ言うのが一番いいって言われて」
「誰に聞いたんですか?」
「アスラン」
「………」
「女性には、『似合ってる』『いい』で充分だって」
「それは、」
人選ミスったんじゃ、とシンが口を開きかけた時だった。
「それじゃダメに決まってるじゃないですか!!」
突然割り込んできたルナマリアの怒声に、二人は目を丸くした。
お姉ちゃん声大きいから…!と、周りから視線を浴びる姉をメイリンは必死に宥めようとする。
「アスランなんか基準にしちゃダメですよ!女性の扱い方間違ってます!」
「そ、そう?」
剣幕にたじろぎながらキラは目を瞬かせる。
「私が色々と教えてあげます!」
使命感に燃えて拳を握る幼馴染みと、それを必死に宥めようとするその妹。そして、内容がよく分からずも押しに負けて頷くキラを目にして、シンは、
「めんどくさいことになりそ…」
と脱力した。
後日。
「やっぱり、あのままの方が良かった…」
シンは疲れきったように呟いた。
ルナマリアが色々と知識を植え付けたおかげで、…いやせいで?…キラの女性への気遣いと言葉遣いは格段に進歩した。
が。
結果、ところ構わず、そして相手構わず女性をベタ褒めするキラの姿が生まれたとか。
そして、顔を真っ赤にして去っていく女性達の間で、キラの人気は急上昇したとか。
それを見て、天然最終兵器…とシンは呟くのだった。