「レ〜イ!」
「………」
…嫌な予感しかしない。
おいでおいでと手招きするキラに、レイは心底嫌そうな顔をした。背を向けようとした時には既に遅し。
がしっ、と力強く肩を掴まれ、満面の笑みが乗っかった声音が被さってきた。
「その髪、触らせて?」
うきうきと花を飛ばす背景を浮かべていることは、漂ってくる空気で分かる。
レイは最早諦めの境地で無表情になり、自分の仕事をもくもくとこなしていた。
キラに髪をいじられている為、デスクのパソコンに向かいながら姿勢だけは動かない、という格好で。
鼻歌が聞こえてくる。
「〜♪ー♪」
「楽しいですか…」
「うん。大満足。議長に恩を売っといた甲斐があったね」
………、…なんだって?
「…議長?」
「そう。日頃の感謝を込めて、レイの髪を自由にする権利をあげるよ、ってね」
「………」
売られたのか。俺は。
どっと気分が疲弊した。
落ち込んだのではなく、疲労感が増したのだ。
「自分勝手な保護者を持つと、ホントに大変だよねぇ」
貴方が言うな、という突っ込みを始め、さまざまな言葉が渦を巻いたが、キラの楽しげな鼻歌に結局は溜め息しか出ないレイだった。
そしてその数十分後、二人の姿を見付け、悔しさでぎゃんぎゃんと叫ぶシンの騒音に巻き込まれ、レイの頭痛の種は益々増えるのであった。
2013/01/19 17:19