地鳴りのような爆発音。
瓦礫が破壊されていく攻撃の嵐の中で、キラはコックピットのハッチを開け、叫んだ。

「無事ですか!?」





同盟交渉の名の元に開かれた和平会談。プラントと相手国、共に中立を保つ国を選んだ筈だったが、それは馬鹿な思い込みだったようだ。

評議会議長と、和平の橋渡しをする歌姫。
プラントの要たる二人。
その二人を迎えて開かれた会談の、只中での、襲撃だった。
狙われたのは、二人が揃う会議開始の直前。議場の爆破が始まりの狼煙となり、テロの焔が周囲から上がった。





崩れた建物の隙間から見えた議長服を目にし、一先ず間に合ったことにキラはほっとした。

目を瞠るギルバートその人と、目が合った。

「何故君が」
「話は後です!ここも崩れる!乗って下さい!!」

瓦礫を駆け降り、護身銃が握られたままのギルバートの手を取った。良かった。怪我もない。
そのままコックピットに舞い戻り、二人分の身体を滑り込ませてハッチを閉めた。

途端、砲撃が辺りに着弾していく。
直ぐさま機体を稼働させた。

もっと視界の開けた場所に出なければ。キラは機体を操りながら安全確保へのルートを探る。目線を巡らせながら、シートの肩に手を置いてモニターを注視するその人へと気になっていることを尋ねた。

「避難中の人はまだこの近くにいますか?」
「全員退避済みの筈だ」
「ラクスは」
「先にジュール隊が保護した」

ほっと息を付く。
ならば良い。
これでもう後顧の憂いは無くなった。


「…―――道を、開きます」


キラの瞳が、取り囲む敵影の気配を捉えた。

視界がクリアになる。
辺りに生身の人影はない。
見えるのは、火器武装したモビルスーツ数体。
白兵戦ではなく、機体投入によるテロ完遂を果たそうとしているのが分かった。

「行けるか?」
「僕は戦闘要員じゃないんですけど、ね!!」

激しいGを掛けながら反転し、横をすり抜けていったレーザー砲の起点を見定めて、こちらもまたバズーカを炸裂させた。轟く爆音。

「…愚問だったな」
「しっかり掴まってて下さい!」

意識は、自分らを狙う殺気の群へと拡散した。





目視出来る範囲内からの脅威を一先ず片付け息を吐く。敵側も一筋縄ではいかないことを悟ったようだ。

それを見計らい、シートの横で無言を保っていたその人が漸く口を開いた。

「目標ポイントは定まっているようだが統制が取れていないな。…こちらの本隊には連絡が繋げられるか?」
「混戦状態ですね。情況がまだ把握しきれてないのかもしれない」
「今更だが…ならどうして君が、単機でここにいるんだ?」
「通信を繋げる時間はありませんでした。僕のこれは完全な独断の、職務外の越権行為です」

確認してからだと間に合わないと思ったので。

キラはザフトにとって正規の戦闘員ではない。
だから今回の会談も、あくまでも母艦の整備員の一人として同行したに過ぎない。

だが。

その整備作業の最中、突然轟いた爆発音。
それに嫌な予感を覚え、持ち場を離れた結果がこれだ。しかも駆け出す間際に、万が一を想像して無断で整備中の機体を持ち出してしまった。常時なら軍規違反もの。

「…緊急的措置だな」
「議長の賢明な判断に期待します」

そんな訳で、こちらは自分一機しかいない。
しかも、最大の標的がここにいることを彼らは知っている。

途端、影達が眼前に躍り出た。

反射神経のように、瞬時にキラの手は回避と反撃の行動を遂行し、敵機を爆発音と共に戦闘不能にする。
収まっていた攻撃の手が、再開されたようだ。

また一つ肩を薙いで行った刃先を掠めるようにわざとギリギリでかわし、駿足で入り込んだ懐から敵機の腕を切り落とした。モニターに閃光が走る。

「数は多いようだが…なるほど、パイロットの腕は中の下と言ったところか。数打ちで攻めてきたな」
「なに呑気に分析してるんですか? 援護が来るまでの集中砲火は確実なんですからね…!」

饒舌に文句を返しながら、キラは次々に敵機を沈黙させていく。
重力に縛られた場所での戦闘が幸運となるか、枷となるか。動きは鈍くなるが、360度から狙われる心配がないだけマシか。

「まだまだ余裕に見えるがな」
「貴方が大人しくしててくれるならもっと余裕ですけどね!」
「貴重な実戦現場に居合わせたんだ。興味が出る」

一度その操縦技術を間近で見てみたいと昔言っていたことを思い出す。自分の命の危機だというのに、この余裕はなんなんだ…!

「安全に抜けられる保障はないんですよ!」

我先にと一点集中で攻撃してくる分、連携が取れておらず、先見の予測が立てやすい。
とは言え…エネルギー切れも心配だ。正規軍が来るまで五体満足で守りきれるだろうか。
とりあえず身柄の安全確保をしなければと、議長その人の身を咄嗟にこの機体に収容してしまったことが、果たして良かったのか。

「この事態に困惑はあるが、不安はないさ」

焦りの中で闘っているキラにとって、その変わらない落ち着きっぷりが逆に癪に触る。

「貴方もジュール隊に保護してもらった方が生存率が上がったかもしれませんけどね!」

そう苛立ちを皮肉に変えて叫んだら、

「ここが今、宇宙で一番安全な場所だろう」
「………」
「どうした?」

キラは舌打ちし、操縦幹を握り締めた。
ギリギリとあらんかぎりの力を込めて。

後ろでしおらしく縮こまっているならばまだ殊勝なものを…!
こんな状況になってまで観察されているような心地になり、腹立たしさはいや増した。

アスランの馬鹿!ディアッカの役たたず!
二人とも早く来てよ!なんでいつもいつもこっちばかりが本職以外の仕事をさせられてるんだ!

腹立たしさは膨れ上がり、キラは襲い来る敵機を風のように薙ぎ倒していった。



キラにとって八つ当たりに近い攻防戦は、そうして友人達が到着するまでに全てが沈静化してしまう結果となったのだった。

2013/09/06 20:53
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