深夜。

どんっ、という何かがぶつかる鈍い音が部屋に響いて、キラは顔を上げた。
キーボードを叩くのを止め、耳を澄ませる。

「………、……?」

ぶつかる音はもう聞こえて来ない。
けれど、代わりに微かに扉を叩く音がする。
小さすぎて、聞き逃してしまうような。

なんだろう、と開閉スイッチを押して扉をスライドさせたら。


「なに…してんの…」


扉横の壁に寄り掛かって座り込む金髪の阿呆が一人いた。…しかも、非常に酒臭い。

明らかに酔っ払って力尽きましたの態で倒れ込んでいるこのザマに合わせ、この頭が痛くなるような酒気。キラの眉間に皺が寄る。

「…ちょっと…ディアッカ…」
「んー…ん〜…?」
「なんでこんなところにいんの!君の部屋は下の階だろ!」
「あー…よーう…キラぁ〜…」

へら、と笑ってひらひら手を振る。

「ノックしたの気付いてくれたかー…」
「ああもうこの酔っぱらい!早く自分の部屋に帰れっ」

だからあれほどいつも言ってるのに…!
場に酔って飲み過ぎるなって!!

酒が弱いわけでもないくせに前後不覚になっているのは、紛れもなく酒量の限界値を越えてるからだ。
酒が好きというよりは、酒を飲んでテンションが上がった自分が好き、という理由により、時々彼は人様に迷惑を掛けるほどに酔い潰れる。

しかも、なんで自分の部屋には辿り着けないくせに、僕の部屋までは来れるかな…!?
エントランスからの距離で言えば、自分の部屋の方が近いクセに!

「起きろ!帰れ!」
「…ん〜…?」

覚醒する見込みのないその姿に、キラは大声を張り上げたくなった。しかし今は皆が寝静まった深夜。共同生活を送っている場としては、それはとてつもなく非常識である。

キラは怒気と苛立ちをぐっと飲み込み、一先ず廊下からの退散方法を考えた。
どうせ自分から動く気などないだろうと、腕を持ち上げ引っ張る。

ずりずりと床を引き摺り、近い自室にしまい込んで部屋のど真ん中にぺいっと転がした。
にも関わらず、目覚めの兆しはまるでない。

「これだけ動かしてもまだ寝てられるか…」

すうすうと、深い寝息だけが聞こえてくる。

「………。…もういいや…」

段々と起こすのすら面倒になってきて、キラはこのまま放置することに決めた。

明日はどうせ昼過ぎまで起きやしないだろう。そして二日酔いで苦しむのも毎度のことだ。

もうこうなったら、眠気と酔い醒ましに究極ににっがい昼ごはんでも出してやろうか。
うん。そうしよう。迷惑料だ。

床で満足そうに眠る友人に、キラは布団を叩き付けた。





そして翌日。

頭を抱えてうずくまる彼へ向けて、予定通り、二日酔い解消だと随一の不味さを誇る健康料理を笑顔で差し出し、相手の顔を引きつらせた。

それに少しだけ溜飲を下げたキラだったが。


「むすっとしててもちゃんと面倒見てくれるしなー。お前、イイ嫁になれんじゃねーの?」


調子に乗る軽い金髪頭を、今度こそ思い切り蹴り飛ばしてやった。

2013/07/29 21:17
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