「まるでヤマアラシのジレンマね」

ある時、少女は言った。

呆れたような、諦めたような。
そんな複雑な表情で、幼馴染みであるシンと、同期であるレイに向けて言葉を向けたのだ。

二人で顔を見合わせたことを、覚えている。

「あんたたちを見てるとね、なんでもっと素直にならないのって思うの」

…やはり、呆れの方が勝っている気がした。
彼女が目を遣った先には、作業内容の話し合いで輪を作るメンバー。その中の一人を示していることは、言われるまでもない。

「自分の領域に入ってきて欲しくない。うっとうしい。お節介。…でもね、近くにいてくれるから叶ってる気持ちがあるってことを、もっと自覚した方がイイわよ」

あんたたちって、性格は対称的なクセして、あの人に対する態度はそっくりなんだもん。
…そう、言いたいことだけを放り投げ、ルナマリアは去っていった。



近付くことで分かる痛み。

近付かなければ分からなかった温もり。



「あ、二人とも」

いつもと変わらない姿が、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「これから半日、非番だよね。…一休みして、昼寝でもしないかな」
「なんで…」

シンの呟きに、キラは笑う。

「だって二人とも、疲れてるでしょ?」

だから、休憩。
休息時間を取るのも、大事なことだよ。


…―――なんで、分かるのだろう。


諦めたような表情を、二人は浮かべた。
互いに見合わせた眼は、笑っていた。

「…?…どうかした?」
「…いいえ。なんでもありません」
「確かにちょっとぐらいは昼寝した方がイイかも、って思っただけです」

誰かに言われるまでもない。
この距離が、自分達にはちょうどいいのだ。
身を寄せあう程には近付けないから―――今はまだ頭だけを寄せ合い、一緒の時を過ごす。

今日もその人は、適度な距離を保ちながら自分達に笑いかけてくれるのだから。

2013/07/04 16:22
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