「くそ…っ」
四肢が破損した機体の中でシンは舌打ちした。
エネルギー切れを狙われたかのように、一瞬の隙を突かれて武器は破壊され、間一髪、仲間のフォローにより大破は免れた。
しかしシンにとっては、その恐怖心よりも悔しさで感情が沸騰しそうだった。
帰艦命令にもギリギリまで逆らいごねたが、闘う術がなければ意味がないと諭され、渋々母艦に収用されていく最中である。
そしてその時間すら惜しいとばかりに、歯を噛み締めて苛立ちを堪えていた。
この機体が動かないのなら、他のに乗りかえてでも敵を殲滅しにいってやる…!
それを体現するように、着艦が完了してすぐにシンはコックピットを飛び出した。
「すぐに使える機体はどれだよ!?」
怒り心頭で感情を爆発させるシン・アスカには何を言っても聞こえない。それを経験から察している整備班達だったが、冷静に見れば明らかに今の彼を戦場に送り出すのは賢明ではないと分かる。
「早く準備してくれってば!」
その剣幕に狼狽えながらも、彼を止めようと周りは取りすがった。
しかし、シンの意思は止まらない。
「離せ…!俺はまだ闘える!」
「調子に乗るな!!」
怒号が一喝し、…場が静まり返った。
誰が発したのか、皆、理解できずに固まった。
熱を持った機体達の唸る音だけが木霊する。
そしてシンもまた、目を大きく見開いて、背後を振り返った。
「キラ…さ…」
周囲と同じ整備服に身を包みながらも、その眼差しは鋭く威圧的にシンを睨み付けていた。
「あ…」
有り得ない視線を向けられている現実が、シンの顔から血の気を引かせた。驚きと戸惑いで、頭がすうっと冷えていく。指先が震えた。
「今の君じゃ、皆の足手まといになるだけだ」
「そんな…っ、俺なら大丈夫です!さっきもエネルギー切れさえなかったら負けなかった!」
「その過信があるから無理だと言っている!」
鋭い怒号が覆い被さった。
シンはびくりと肩を揺らす。
「相手の方が強かった!だからやられたんだ!」
感情を出し尽くすと共に、激情を溜め息に代えて深く吐き出し、キラは一度目を閉じた。
「あの時周りが庇ってくれなかったら、どうなってたか…」
再び真っ直ぐシンを見上げた視線は、やはり静かな怒りに満ちていた。
普段見せたこともない、不快も顕にしたような表情で声を沈め、
「君は弱い。自覚しろ」
それだけを低く告げ、キラはシンに背を向けた。
徐々に音が戻り始めた格納庫の只中で、シンは一人、指先一つ動かすことも出来ずに立ち尽くした。
2013/03/09 22:20