※パラレル※





「…―――ねぇ、この花の名前は知ってる?」

そう言って、窓辺に少年が顔を出した。

それが、イザークと彼の出会い。
そして、小さな箱庭で描かれる、二人の物語の始まりだった。





「ねぇねぇ。この花の名前は?」
「…またお前か…キラ…」

顔見知りになりつつある姿に、イザークは頭を抑えた。

一階。大学の研究室の窓越し。
『ねぇ』―――それが、キラが自分に呼び掛ける時の常套句。

「ねぇ、この植物の名前は?」「何の研究してるの?」「君、生物学部のエースなんだよね?」「いろんなこと知ってるって聞いた」「花の名前くらい教えてよ」「ねぇ、この花は何?」

最初は無視していたその声にやがて根負けし、問い掛けの答えを返してやったのが面倒の始まり。キラは毎日のように顔を出すようになった。今はもう、お互いの顔と名前を覚えてしまった程に。

「毎度毎度…研究の邪魔をするな」
「えー、つまんない」
「お前の事情など知ったことか」
「真面目な上に態度も冷たい。聞いてた通りだね」
「…なに?」

聞き捨てならない台詞があった。

「誰に聞いたんだ」
「友達。…アスランってコ、知らない?」
「………」

イザークの眉間に皺が寄る。

会ったことはないが、名前だけはよく聞かされている。工学部のアスラン・ザラ。なにかと比べられ、勝手に優劣を語られる相手だ。
例え会えたとしても、親睦を深めることはないと想像が付く。きっと向こうもそうだろう。

「君ら、この大学内じゃかなり有名だもんね。学部は違うけと、クールで博識、王子様みたいな期待のホープ」
「そいつと同列にするな」

不愉快極まりない。眉間にクレパスが走る。
それでもキラはころころ笑い続けていた。
…そう、そんなことはどうでもいい。

「そういうお前は、どこの学部のどういう人間なんだ。毎回決まった時間に来るとは…講義もゼミもない、ただの暇人なのか?…それとも部外者か?」

キラは、「んー」と考え込む仕草の後、

「ここの学生でも研究生でも、ましてやお偉いさんでもないよ。…でも、一日の大半はこの大学でお世話になっている人間、ってトコかな」

にこにこと能天気に笑いながら、今日も変わらず指を差す。
その先には研究用のプランターが幾つも並び、陽射しを浴びて生き生きと花が生育していた。

青空に笑う顔。
嬉しそうな声。
窓越しの問い掛け。


「ねぇ。その花の名前、教えてよ」


―――今日もそうして、そいつはやってくる。

2013/03/09 22:20
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