「…あれ。このペン、もうインクがないかな」
貸したペンが使えなくなったというキラの呟きに、シンは顔を上げた。
「あ、確か代わりのヤツが…、………」
………ない。
普段滅多に机に向かわないから、何処に余分な筆記用具があるか分からない。どうしよう。
「ないの?」
「はい…」
「えーと…確か…、持ってきてた気がするんだけど…。…あ、あった!」
キラは自分の持ち物をごそごそと漁り、新しいペンを取り出した。
「はい。これあげるよ」
「え」
「使いかけで悪いけど」
「貰って…いいんですか?」
「うん。書くものがないと困るでしょ」
手の中の、何処にでもあるシンプルなペン。
けれど、シンにとっては握り締めたくなるぐらい光るものに見えた。
「じゃあ、続きを始めようか…、…ん?」
キラの視線が、チェストの上の箱に向いた。
白い紙がはみ出ていてるのが見えて、キラは指を差す。
「文房具類、その箱に入ってるんじゃない?」
「え!」
シンはびくりと肩を揺らした。やばい!
「あそこにはないですから!」
「…?…メモ帳とか入れてるなら、ペンも一緒に入ってるんじゃ」
「ダメですから!その箱は絶対にアウト!」
自分で言ってて意味不明だが、焦りが勝って訂正する暇もない。ハテナマークを連発するキラの視界から箱を奪い隠し、抱え込むのだった。
キラが去った後、シンはカタリと箱の蓋を開けた。
走り書きされた紙の切れ端。言伝てをしたためたメモ用紙。手書きで修正してくれた書類の一枚なんて、とっくに用のない代物だけど。
人にはゴミのようなそれらも、自分にはとても大切な…。
一人の人間との思い出の品で埋め尽くされた、四角い箱。…―――夏色少年の宝物。
…いい加減、溢れてしまいそうだ。
今日も手のひらに降りてきたソレを箱に納め、シンは静かに蓋を閉めた。
2013/03/05 01:57