その時の、細かい状況までは記憶していない。
本人こそが、覚えていないと首を振ったから。


…―――ただ、結果は一つ。


キラは重症を負い、身体に後遺症を追った。


腕を思うように動かすことが出来なくなり、思考通りに神経が働かない。
視力も酷く低下し、時折狭窄になってしまう。
臨機応変に状況を判断して動けるだけの能力が失われてしまったのだ。
パイロットとしては、決定的なものだった。

キラは、診断が下されてすぐ、MSパイロットの第一線から引退することを決めた。





「キラ!OSの最終確認をしてくれ!」

新型MSの足元で一人パソコンを打っていたキラに向かい、アスランは声を掛けた。
顔を上げた彼に近付く。

「なに?また?…こんなの、アスラン一人でも全部できるじゃない」
「お前に見て貰った方が確実だ。安心できる」

保険は掛けておきたいとこぼすアスランに、キラは渋い顔をした。

「僕の全盛期は過ぎたんだ。もうちょっと隠居させてくれればいいのに」
「なに年寄りくさいことを言っている。お前の力を早々眠らせてたまるか」
「人使いが荒いなぁ…」

怪我を負い、パイロットを引退したって。
それは一部の力が失われただけ。
無くしても尚、キラには余りある才能がある。

腕が動かせなくても指先が。
視力が衰えても直感が。
何より、人に安息と笑顔をもたらす優しさが。

「それじゃあ、お望み通り働きますか」

どんな彼になっても、皆に必要とされる事実は決して変わらないのだ―――。

2013/01/30 01:30
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