「いつか軍を辞めたら、白い家で犬でも飼って花を育てながら暮らすってのも、いいなぁ」
どんな少女趣味だ、とか。ラクスのところに行けば、今すぐ叶う夢じゃないか、とか。
からかう台詞は幾つも浮かんだが。
キラの遠いところを見る眼差しに、アスランは言葉を飲み込んだ。
「…どんな花を植えたいんだ」
「白い家が映える感じの、赤や黄色の花とかがいいよね」
昔はよく過去の日々を惜しみ懐かしんでいたけれど、この頃は未来に想いを馳せるようになったと思う。
「お前には似合うかもな」
嬉しそうな笑顔が、にっこりと返ってきた。
「その時は、アスランもお隣さんね」
「…いや。遠慮する」
「なんで?」
「俺は目立たず騒がず静かに暮らしたい」
「じゃあ、中間を取って僕の家に同居でもいいよ」
「中間…?」
未来を語るキラは、生き生きとしている。
過去を振り返る時は寂しげだった眼が、光を帯びて輝くのだ。
ある日突然、縁遠いと思っていた世界から新たな地に連れてこられた花は、それでも懸命にその地に馴染もうと生き続ける。
いつかそれは、凍てつく寒さの中でも咲く、鮮やかな花となるだろう。
そして、その地に無くてはならない色となる。
「さて、現実を見ましょうか。お仕事お仕事」
大きく伸びをして立ち上がったキラに倣い、アスランもまた背を伸ばし、静かに隣に並んだ。
2013/01/28 23:00