アスランは、時間があればいつも、ノートを広げて勉強をしていた。

肩にはヘッドフォンを下げ、制服のネクタイは緩めシャツは着崩して、指先は暇を持て余したようにシャープペンを回している。

そんな気だるそうな姿でも机の上のテキストは常に開かれたまま。視線は文字を追っている。
ただその中身は、学園で受ける授業ではない。

アスランが学んでいるのは、帝王学。

将来、家を継ぐための。

この学園に通うのも、ただの義務教育みたいなものだ。
ただ無為に十代を消費しているように見える毎日の中でも、アスランは………親友は、将来へ向けての下積みを重ねていた。



「ねぇ、まだ終わらないの?遊びに行こうよ」
「課題をやってるんじゃないんだ。待ってても終わるものじゃないぞ」
「つまんない」

アスランの前の机に腰かけ、ダルそうにキラは呟いた。

涼しい顔を崩さないまま、アスランは机に向かい直した。こちらとの会話は終わったとばかりに。…ますます、つまらないと思った。

ちょっと覗いて見たテキストの中身は、正直頭の痛くなる内容だった。理解出来ない中身ではないが、自分には所詮縁遠いことだ。

そのままぼんやりと親友の姿を見詰めてから、「僕も将来はさ…」と呟く。
アスランは顔を上げた。

キラは視線を合わさないまま言葉を続けようとして……、……何となく気持ちがノらなくて、笑うに留まった。馬鹿らしいとも、思った。

結局出てきた言葉は、情けない冗談みたいで、もっとバカらしかった。

「将来アスランの会社に雇って貰おうかなぁ。…それが一番平和だよねぇ…」

何でも思い通りになる才能は、何をしても満足を得られない退屈さも連れてきた。
自惚れではなく、それが事実。

そしてそれは、周りの人間にとっては限りなく軋轢を生むことだろう。

今はまだ子供の特権で平和に生きられる世界にいるが、きっと外に向かえば向かうほど辛い現実になっていく。

そんなこと、とっくに分かってたんだけどね。

今のこの生活も悪くないから、先のことなんて考えたくもないし。
今が愉しければいいじゃないか。
キラは、刹那的に生きる自分に満足していた。

アスランは、こちらの話に取り合う気があるのかどうか分からない態度で、

「なら、もっと知識や技術を身に付けろ」

自身の勉強に意識を戻しながら、流すようにそんなことを言う。
それから、ペンを持った腕で肘を付き、挑戦的な眼をして薄く笑いながら、キラを見上げた。

「将来は、俺の会社で働くんだろ?」
「それで次は、世界で遊ぶ?」
「お前がそれを望むなら」

それも悪くないね。
社会に出ても、世界が広がっても、一緒に渡っていくパートナーがいるならば、どんなフィールドだって楽しい遊び場になる。


「早く大人になりたいなぁ」

お前が言うと嘘くさい、という親友の言葉が聞こえた。



2012/11/22 23:22

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