「お前ら、いい加減にしろ」
生徒会室に呼び出された二人は、頭を押さえるイザークに、開口一番そう言われた。
「僕ら何かやったっけ?」
「さぁ。思い当たらないな」
涼しい顔をするキラとアスランに、イザークがカッと目を見開く。
「授業プログラムにハッキングして騒動を起こしただろうが!!」
「何で僕達だと思うのさ」
「あんなこと出来んのお前らだけだって。しかも出てきたのはハロだぜ?…間違いないよな」
面白そうにディアッカが口を挟んでくる。
その言葉に口をつぐむ気は無くなったらしい。
開き直って、逸らしていた視線を元に戻した。
「ああ、あれ。可愛かったでしょう?…ハロの動きを表現するの、結構難しかったんだ」
「現物と画面上の動きでは、やはり違うもんだな」
「アスランも手こずったもんね」
「今後の参考になった」
悪びれもなく言葉を交わしあう二人に、イザークの怒りのボルテージは上がっていき…、
「確かにアレはかなり笑えたよなぁ。教師達のあの唖然とした顔とかさ!」
「貴様は黙ってろディアッカぁ!!」
ディアッカの一言でとうとうキレた。
へーへー、と面倒そうに組んだ足を机に乗せ、ひらひらと手を降る。
「復旧にどれだけ時間と労力が掛かったと思ってるんだ!」
「でも、授業が無くなって皆喜んでたよ?」
「そういう問題じゃない!」
「なんかイザーク、シンみたいだなぁ」
それはキラ、お前に対してだけだ。そう誰かが思ったとか。何処かでくしゃみをする声が聞こえた。
「そもそも、なんでイザークがその話を持ち出すの。今日まで先生達にも誰からも、お咎めなんか貰わなかったのに」
キラ達のすることに、誰も注意をしてこないのは今更だ。誰から怒られようが怖くはないが、何故それがイザークの口から出るのかが分からない。立場上の責任感が、そうさせているのだろうか。
首を傾げるキラに答えをくれたのは、にやにや笑いのディアッカだった。
「お前らが問題起こすとさぁ、最近全部こっちに回ってくんのよ」
主にコイツのトコ。
ディアッカは親指でイザークを指し示す。
キラは眉を寄せた。
「なんで?…僕らんとこに直接言いに来ればいいだけじゃん」
「それが出来ねーから、大人達が揃ってイザークのところに泣き付きに来るんだろ」
「…それって卑怯だよね」
「お前が言うな。支離滅裂だ」
静かに「納得いかない。ムカつく」と呟くキラの姿に、漸く怒りを納めたイザークは突っ込んだ。原因はお前だ。と。
「…だからってさ…、イザークに言わせるのはやっぱりズルい…」
悪事だと分かっていて尚、引き起こしていることだ。キラが謝罪することも反省することも、まず、ない。
しかし、しゅんと落ち込ませることは出来る。今のように。そしてそれが出来るのは、キラの身内の人間だけだった。
だが、その殊勝な態度が長くは持たないのもまた、キラである。
「だからって、俺に言われたところでお前が素直に聞くタマか?」
「聞かないね」
さらっと顔を上げて首を振る。泣き出すか、というしおらしい態度などキレイにふっ飛ばし、いつもの、周囲をまるで無視した顔に戻る。
それにはもう、今更誰も突っ込まない。無駄なことである。自由奔放にこの学園をオモチャ箱にするキラには、もう何も通用しないのだ。
「楽しい毎日が起きるなら、それでいいじゃない。ね?アスラン」
「お前が満足なら、いいんじゃないか」
アスランもまた、騒動の良し悪しに関係なく、親友に付き合うことに抵抗はない人間だから、ストッパーがいない。
ディアッカの呆れの溜め息は、別の相手に向けられた。
「お前も分かってんなら、最初から言わなきゃいいのによ。イザーク」
「とりあえずでも言っておかないと、教師達への顔が立たん」
「あ…そ…、真面目な生徒会長サマね」
生徒会に権限があるワケではないが、頼りにされているのも確かである。特に、学園一の問題児が絡むなら。
「それと、後始末が回ってくるのが俺達であるのが気に食わん」
「本音はそっちだろ…オマエ…」
八つ当たり気味―――むしろ怒りの矛先は正当なのだが―――な怒鳴り声と説教の本当の理由は、多分それ、だった。
「とにかく、ほどほどにしとけ」
「はいはーい」
了解、とキラはひらひら手を振った。誰が見ても信用が出来ないと言える満面の笑顔と共に。
話は終わった、とばかりに出ていこうとした二人に、ディアッカがスス…と近寄った。
「ところでさぁ、キラ。授業ジャックの計画とかって、また立てたりしてんの?」
「ん?なんで?」
「来週、ちょっと面倒な授業があってさ。できるなら潰して欲し……ってぇ!」
後頭部への衝撃に振り返れば、イザークが腕を振りかぶった体勢のまま青筋を立てていた。
足元には、折れたチョークが転がっている。
「なにすんだよ!」
「貴様…、よく俺の前でそんなに堂々と密談ができたものだな…」
「なんだよー、キラのすることは見逃すんじゃねーのかよ」
「そんなわけあるか!」
「ツマんねーなぁ…」
「お前も風紀委員なら少しは自重しろ!」
ディアッカはムと唇を尖らせた。
「お前が勝手に入れたんだろーが。俺は別にやりたくもなかったのに」
自分が知らぬ間に、勝手に名前が連ねられていたのだ。生徒会長権限乱用である。
「だよねぇ。ディアッカが風紀委員になったって聞いた時は、僕もう爆笑したね」
「ふ…、少しは落ち着くと思ったイザークの判断ミスだな」
黙っていたアスランまでもが、薄く笑みを浮かべた。当然イザークが黙っているわけもなく。
「いつも問題を起こしている人間が何を言っても説得力がないな。俺は常に学園のことを考えて動いている」
「お前の采配で、この学園が傾かないことを祈るさ」
冷戦勃発。
キラは、「わぁ喧嘩?楽しくなりそう」と面白さに貪欲な性格そのままに目を輝かせている。
面白いことは大歓迎だが面倒事は大嫌いなディアッカは、「まーた始まった」と呆れて椅子に座り、眠そうに机へとへばり付いた。
学園の中心は、いつだって賑やかなまま。
渦中にいる人間は、常にキラ・ヤマトと関わりを持ちながら、飽きない学園の日々を謳歌するのだった。