…―――ねむい…。
午後の授業開始から十五分。
かくん、と垂れる頭。はっとして顔を上げる。
目の前に視線を戻して、…やがてまた下がっていく頭。……先程からその繰り返し。飛びそうになる意識を、シンは必死に繋ぎ止めていた。
辺りを見渡せば舟を漕ぎ始めている他の生徒が何人も見える。テキストを復唱し、なぞるだけの授業の、何てつまらないことか。
眠気に抵抗する気も起きなくなってきて、机に突っ伏そうとした瞬間だった。
ドォン―――――!!
腹から響いてくる爆音が耳をつんざき、シンは跳ね起きた。
ドン―――!
ドォン―――!
クラスメイト達が騒ぎ出す。
教師が音の出所を知るため廊下に飛び出した。
すわ何処かで爆発か!という音は断続的に続き、それは校舎内ではなく外から聞こえてくることにシンは気付いた。逸早く窓に駆け寄る。
「…あ」
そしてそこに、見慣れた姿を見付けた。
同時に音は止み、同じく窓際に走ってきた教師が校庭に怪音の原因を見付けるや否や、バタバタと教室を飛び出して行った。
廊下からは、教室に留まっているよう叫ぶ他の教師の声と忙しない足音も聞こえてくるから、きっと他のクラスの先生達も校庭へと向かったのだろう。
唖然とするシンの携帯へと、メールが届く。
【起きた?】
もう一度窓の外を見れば、校庭でその人が手を振っている。
足元には大きな筒の残骸。
あれは多分、花火で……さっきの爆音の出所。
シンが驚きで瞬きを繰り返していたら、その視線の先で先輩は、校舎を飛び出して来た教師に追い立てられるように、校庭から逃げ出して行った。
「あの人またやってるんだ」「先生達も必死だねー」「またやり返されるだけじゃね?」「でも楽しそう」「生き生きしてるよね〜」
窓辺から校庭を見下ろすクラスメイト達がざわめき出す。誰もが笑いながら、彼の人の噂や、今見た光景に花を咲かせ始めた。
誰よりも楽しそうに、青春を謳歌する問題児。
学園一の、有名人。
そして、学園一の、自由人。
気怠い午後の教室が、途端お祭り騒ぎのように浮き足立つ。
そしてまた、メール着信。
【授業がつまんなくて眠いならついておいで】
メッセージに、ただ、笑う。
答えなんて、考えるまでもない。
退屈な教室から、シンは駆け出した。