「…コレ、使えるな…」
じー…っと。
手の中の黒板消しを凝視していたキラが、そう呟いた。
「また何急に言い出してるんですか」
授業と授業の間の中休み。
パシられてキラの教室に来ていたシンは、自分用のジュースをすすりながらジト目でキラを見る。
「これを使えば、面白いものが見られそう」
「はいはい。教師の頭にでも落とすんですか」
「シン…」
「ちょ、何すかその哀れみの眼は!?」
「今時そんな古典的なことするわけないじゃん」
馬鹿にすんなー!とシンは叫ぶ。
キラはそれを無視して話を進めた。
「黒板消しが見当たらなかったら、どうする?」
「…?…黒板に字が書けない」
「うん。授業にならないね」
「で?授業を潰す為にそんなことするって?そんなの代わりを持ってくりゃイイだけじゃん。備品室に代えはあるんだし」
「そうだね。備品室に取りに行けば代えはいくらでもあるね」
脈絡のないやり取りに、シンはだんだんイライラして来た。だから何なんだ!?
キラはただ、にーと笑うだけ。
「頭のいい人間は、常に物事の二手三手先を読むものなんだよ」
「どっかで聞いたことのあるセリフですね…」
そうしてキラは、一度教室を出て行った。
その、黒板消しを手にしながら。
そして10分後。
「おっけー、準備完了〜。…あ、シン、どうせならこの後もここで遊んでいきなよ」
「いや、もう休み終わるし。次の授業もあるんで」
キラはひらひらと手を振った。
「へーきへーき。今日は多分、一日自習になるから」
どういう意味だよ…と眉を寄せたその瞬間だった。
急に廊下がざわつき始め、バタバタと慌ただしい足音が忙しなく行き来し始めた。
叫び声が飛び交う。
「扉が開かないってどういうことだ!」「外側からもダメなのか!?」「備品室から緊急アラームが出てます!」「セキュリティはどうなってる!?」「ダメです外部から接続できません!」「パスワードが書き換えられてます!!」
「♪〜」
「………、……キラさん」
「ん〜?」
「………」
くだんのその人は、廊下に響き渡る騒ぎなど我関せずに、クラスメイトとトランプなんか始めていた。
「………」
「お、やった。結構いい手が来たよ」
「………」
「はっはーん。僕に勝てると思ってるの?…いいよ〜。何か賭けようか?」
「…はぁ…」
「じゃあお昼ごはん賭けて勝負!」
学園の平穏は、キラ・ヤマトの気まぐれで回っているのかもしれない…。