放課後の屋上。
手摺に肘を付いて見下ろす眼下には、帰宅していく生徒達が溢れていた。
「へぇ…彼か…」
その中に目当ての金色の後ろ姿を見付けて、キラは呟いた。
シンはそれに頷く。
「俺とはタイプが違うんで、話したことないですけど」
「でも、優秀な人間なんでしょ?」
「学年試験ではいつもトップです」
「なら、適正はバッチリだね」
にや、と笑い、校門を出て行く姿を最後まで見送った。
「何でまた勧誘になんか乗り出したんですか」
「最近イザークに迷惑掛けてるみたいだから、優秀な人材が生徒会に入ってくれれば彼も少しは楽になるかなぁって」
僕自ら動いてみました!
いやいやいや。胸を貼られても。心労の原因はほとんどはアンタだから。そもそも騒動を起こすことを自粛すればいいだけだから。…とは、勿論言えるワケもなく。
「それで目を付けたのがアイツってワケですか。……確か名前は…、レイ…」
「レイ・ザ・バレル」
既に下調べはしてあるらしい。
「演劇部の伴奏手伝いで、ピアノ弾いてたコだよね」
「よく覚えてますね」
「でも、部活は何もしてないんでしょ?」
「多分。すぐ帰ってるみたいだし」
「それはますます好都合」
「ていうか、何でアイツなんですか?確かに学年トップはキープしてるけど、性格的にはあまり付き合いやすい人間じゃないみたいですよ」
隣のクラスの友人に聞いてみたら、そんな返事が返ってきたのだ。
「………まぁ、色々とね」
キラは意味深に笑うだけ。
思っていることは教えて貰えそうにない。
そんな不満そうなシンに気付いたのか、キラは首を傾げて少しだけ言葉を足してきた。
「敢えて言うなら…」
にやり、と。
黒い笑みを浮かべながら。
「仲良くなれそうだったから?」
あ。なんか終わったかも。
何が、かは分からない。だが、シンは何となく悟った。何故なら、自分自身がかつて目にした、いつかの面影に重なった気がしたから。
「明日、彼の所に行くよ。付き合ってね」
それだけを言い残して、キラは屋上から去っていった。
翌日。放課後。
目的の人物がさっさと帰宅してしまう前にと、二人はその教室へと向かった。
気難しい奴だって聞いてる。どう説得するんだろう。そもそも、どう切り出すんだろうか…。
緊張するシンとは裏腹に、キラは何の躊躇も見せずに、噂の人物がいる教室へと歩いていく。
ガラ!と勢いよく扉を開け、皆の注目も、シンの慌てぶりも我関せず、てくてく歩を進める。
ぴたりと止めたのは、件のレイ・ザ・バレルの真正面。
落ちた影に顔を上げた彼に向かい、
「君、生徒会に入っちゃいなよ!」
親指を立て直球勝負に出た。
シンはブッと吹き出した。
「入りません」
即効でフラれた。