「何この依頼量…ありえない…」

物理的にはパソコン一台分しか目の前には無いというのに、そこに送られたデータ量の多さに、キラはキーボードに乗せた指先をぷるぷると震わせた。

「なんなのコレ…」

しかも、そのほとんどが最高評議会議長の名の元に命令が下っている。

「おい、キラ?大丈夫か?」
「マジころす…あの人…」
「キラ?」
「労働院に訴えてやる!」
「落ち着け!」
「ここまでしたら最早パワハラでしょ!?」
「とりあえず、作業命令である以上はやるしかない」
「何でそんなに落ち着いてられるのさ…」

ただでさえ最近は全然休むことも出来ず、施設に泊まり込む日々だというのに。
アスランだって同じくらいの仕事量を貰ってるよね、と呟くキラに、アスランは溜め息を付く。

「それが役目だ。…いいから片付けるぞ…」
「…はぁ…」



そして深夜。

「………終わっ…た………」

最後のデータを送信し、完了画面を見届けたキラは、そのまま倒れ込むようにデスクにへばりついた。

「さすがに堪えたな…」

アスランも肩を鳴らしている。

「何かどれも期限が早過ぎるのは何で…?」
「まぁ、確かに。緊急というほどでもないのに、ほとんどが明日までだったな」
「…陰謀だ…嫌がらせだ…」

議長がキラにからかいの手を向けるのは、ある意味よく見るところだが、仕事の場にまで議長特権を振りかざすことはあまりない。

アスランも首を傾げていたら、部屋にイザークが入ってきた。

「キラ。いるか?議長から」
「あ?」
「止めろイザーク。今その名前は禁句だ」
「…?…よく分からんが、その議長からお前宛に言伝てだ」
「何?追加の業務命令?本気でヤるよ?」

言葉が何となくオカシイ、と引き気味のイザークはアスランを見る。
アスランは無言で首を振るだけだった。

「……とにかく、伝言は一つ」



明日から一週間の休暇申請を許可する。



「……………」
「……………」
「………は?」
「………休暇?」

キラとアスラン、二人揃って瞬きをした。

「…どういうこと?」
「そのままの意味だと思うが?」
「キラ、お前休暇申請なんて出してたのか?」

キラはふるふると首を振る。
そして首を傾げた。アスランを見る。

「………、………ああ、そういうことか…」
「…どういうこと?」
「この期限付きの仕事量の多さ」
「………」
「成る程な」
「………」
「事情は知らんが、二人とも納得したのか?」
「………、……〜〜〜っ…あの狸…!」

ほぼ全部が議長の名指しで依頼されていたことにも合点がいって、キラは拳を握り締める。……やっぱり嫌がらせじゃないか!
自分らの困った顔を想像して、笑っているに違いない。

それもまた、簡単に想像出来るから、キラは別の意味の怒りに叫ぶしかなかった。



所詮大人には敵わない!

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