D.G-Dr ほかも | ナノ


▼ 適齢期

結婚適齢期。男女ともに二十歳から三十代前半くらいまでをいうらしい期間。俺はどうやら、そこに足を一歩踏み入れてしまったようだ。大学生活も後半になってそろそろ就活の話で耳にタコができそうな頃。俺は一抹の危機感を感じていた。

ありすと付き合って三年。学生でなければそろそろ結婚を意識し始める頃合いだろうが、生憎俺達はまだキス以上のことをしたことがなかった。


別にありすをそういう目でみれない訳ではない。むしろオカズにはさせてもらってる。そのためにありす専用写真フォルダも作り、それは三年でずいぶん充実した。
だが問題は彼女、ありすである。ありすは幼い外見同様、中身も子供っぽいところが多い。そこが良いとも思うしなんでこんなに幼稚なんだとため息つきたくなることもあるが、俺としては頼られて悪い気しないので直させる気はあまりない。
が、それ故にありすは男の性を理解していなさすぎる一面があった。

現に付き合い始めて一年はキスもおちおちできなかったし、手を握れば緊張しすぎて逃げ出そうとするような子だ。ありすの傍にいたい一心で下心をひた隠ししてきた結果、三年という月日はあっという間に去っていった。

「ありすって赤葦と結婚すんの?」

木兎さんの一言は偉大だ。自覚してはいないだろうが、純粋な木兎さんの一言は容赦がない。だから俺が今まで聞けなかったことをきいてくれてラッキーと心のどこかで思った。

「京治と、ですか?」
「そー」
「うーん」

え、そこ悩む?

「そう、ですかね?」

なんで疑問形?

「赤葦とありすが結婚かー、あんまイメージわかねぇなぁ」

それは木兎さんとありすくらいで俺の人生プランにはデカデカと『ありすと結婚』って書き込まれてますよ?

「あっ、わかる!」

わかる?えっありすわかるの?

「だよな!あーよかった」
「いや、何が良いのかさっぱりなんですけど」

きっと俺の顔は不機嫌MAX。でもそんなことお構いなしに伝える。

「だって赤葦とありすだぜ?」
「うんうん」
「赤葦、ありすにまだ手出してないんだろ?」
「それは違いますよ!」
「えっ」「えっ」

事実だから肯定しかけた矢先の否定に俺まで驚く。

「京治は手出してないんじゃなくて、手を出さずにいてくれてるんです!」
「あー……なるほどな」

木兎さんは納得したみたいだけど、俺はどちらにしても手を出せていないことにかわりないと不服ながらに思う。

「だから、えっと、もうちょっと!もうちょっと、経ったら、がんばれると思うから…」

いじいじ、モジモジと身を捩りながら赤面して言うありす。そんな顔で上目遣いをされてはたまったもんじゃない。だからありすは男の性を理解していなさすぎる。

「よかったな赤葦!」

バンッと勢いよく叩かれた背中が痛い。
こうなったらヤケクソだ。

「わかった。そのかわり“その時”がきたら一晩中ありすを離さないから。覚悟しておいて」

きょとん、とする二人を見て口元が笑う。

俺の結婚適齢期はまだまだ遠い。

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