D.G-Dr ほかも | ナノ


▼ ずっと、このまま

「ありす!マネ辞めるってどういうことだ?!」
「あちゃー…。聞いちゃった?」


そう、罰の悪そうに振り返った姿を、俺はまだ忘れらない−−。




ちょっと前からね、おかしいなぁとは思ってたんだ


病院いったら詳しい検査しましょうって


なんか、やっかいな病気みたいで


移ったりとかはないんだよ!?ただ…−−




治療法がまだ、確立されてないんだって









「赤葦ィーーーーッ!!!!!」

体勢を崩した姿勢でのトスは鮮やかに俺の手に吸い込まれ、一気にネットの向こうの床へと叩き落とされる。


「ッシャアアアアアアアア!!!!!」

腹一杯叫ぶ。

3セット目。相手との小競り合いを続けた末の、リード。21-24。絶対に負けられない理由があった。

特別に許可されたマネージャー2人がコート脇で手にした携帯電話。通話時間はとうに一時間を越えている。接戦の接戦。1セット目からデュースで競り合い、2セット目はギリギリのところで持っていかれた。

負けるわけにはいかない。
絶対。

その思いだけが限界を越えた俺を突き動かす。


試合直前に不安を覚えた膝も、テーピングでグルグルになっていた。それでも誰も「止めろ」なんて言う奴はいなかったのが内心嬉しかった。



「「一本っ!!!」」


マネ2人の声が重なる。2人とも、泣いていた。


俺達は誰も振り返らずにただ敵を睨みつけた。



「「「「「「一本ッ!!!!!!!」」」」」」


チームの声が重なる。


サーブが入って相手のレシーブを乱す。苦し紛れに相手のセッターに返ったボールは幾らかの焦りがみえるほど頼りないものになって宙に上がった。

俺と赤葦がブロックに飛ぶ。ストレート。ボールは俺と赤葦の間。僅かに赤葦の小指に当たって後ろへ流れる。


「取るッッ!!!!!」


小見が叫んで、ボールが跳ねる。すぐさま赤葦が落下地点に入るのを横目に助走距離を十分に確保した俺は叫んだ。


トスが 上がる。



歓声の音が 止む。



赤葦が、チームの皆が俺の名前を呼んだ。






−−光ちゃん−−






思いっきり、飛んだ。






ピピーーーッ!!!!!




主審の手がこちらに上がる。




全員が顔を見合わせ、そして吠えた。




肩を抱き合って輪になる。




「木兎ッ!!!」



走り寄ってきたマネの顔が真っ青で、俺は慌てて携帯を受け取った。



「ありすッ?!!」

『……』

「勝ったぞ!!!約束通りッ勝ったぞ!!!!!」

『……っ』

「ありす!?!?」

『……おめでとう、光太郎君、っ』

「……ァ、」

『あの子にもきっと、届いたわっ』

「おば、さんっ」




腕から力が抜けて、握った手からも携帯が落ちた。



目の前でマネの2人が崩れ落ちた。


悟ったメンバーが後ろで涙を噛み締めるのを感じて、俺は必死に泣くまいと天を仰いだ。



伝ったのは温い水。


これはきっと、勝利の涙。



だから今だけは、弱虫な幼なじみになっても許されるだろうか。

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