D.G-Dr ほかも | ナノ


▼ 03

「それはまだありすが認めたくないだけなんさ」

いつだったか、ラビが言った言葉が浮かんだ。

「それが当たり前なんさよ。形あるもの何れ壊れる。人も例外じゃない。生まれれば死ぬ。残酷だと思ってる時点でありすがその事実を受け入れられてない証拠だとオレは思う」

そうだ、あれは学校の図書室で。珍しく神田が調べ物があるとか言いだして。着いた先にラビが居て。神田が物色してる間、わたしはラビとある一冊の本について話していたんだ。

その時の情景が徐々に浮かび上がる。
半分ずつ開けられた窓。光を遮るように掛けられたカーテンは意味も持たず、まるで読み終えたと言わんばかりにページを捲り、何度も何度も髪を靡かせた。

「ありすは、あっちが嫌い?」
「きらいじゃないよ」
「じゃあ、こっちの幸せに目が眩んじまった?」
「どういう、こと?」

意味を掴み損ねて訊ね返す。ラビは「うーん」と少し考える素振りをした後、思考の端々に散りばめられた言葉を繋ぎ合わせるようにぽつぽつと言葉を紡いだ。

「あっちに比べればこっちは『平和』、その一言に尽きるさ。世界がどうあれ、少なくとも俺達が誰とも戦わずに食っていける。だからってあっちで過ごした日々が幸せじゃなかったってことはないんよ。あの時代なりにオレらは幸せを分かち合って生きてきた。こっちとあっちじゃ環境の違いがあるんだから、比べたって仕方ないんさよ」

なんとなく、ラビの言いたいことが伝わってきて。カーテンが風に靡くのを肩肘ついて言うラビをわたしはただ見つめ返すことしか出来なかった。

「オレはあっちで過ごした日々も幸せだったと思う。戦争はもう懲り懲りだけど」

なんて言いながらこちらを向いて笑うラビの笑顔が光に透かされすごく綺麗で、なんだか胸が切なくて。

絞り出した「うん」は掠れてしまって。

ふわりと優しく吹き込んだ風に乗って目尻の滴がひとつ零れた。

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