D.G-Dr ほかも | ナノ


▼ ぎっしり沈む幼馴染とわたし。

「……やばい」

足元の小型化された最新版体重計を見下ろして言う。期限はそう遠くない。

緊急ダイエットが必要でした。



「お前も食うだろ?」と訊かれ、「うん!」と勢いよく返事しそうになってハッとする。

「や……今日はちょっと止めとこう、かな」
「どうした?調子でも悪いのか?」
「そうじゃなくて。昼間食べすぎたかなーって」
「お前もしかして…体型のこと気にしてんのか」
「うぐっ」

もしかして、と言う割には断定された言葉が胸に刺さる。というか、一応女の子なのに『体型』とか言葉選びに遠慮というものがあってもいいと思う。うん。

「再来週、江ちゃん達とプールに行く約束しちゃって…」
「で、食わねぇダイエットか?それ、逆効果だぞ」
「えっ」
「食わねぇ時間が長すぎると体は飢餓状態と勘違いして次食べた分を余計に蓄えるようにできてっからな。痩せたいならきちんと三食しっかり食って、あと適度な運動。規則正しい生活。ってな」
「そんなぁ…。もう水着も買っちゃったのに…」
「今、水着っつったか?」
「え?あぁ、うん。さすがにスクール水着じゃ勿体無いしって江ちゃんと一緒に買いに行って」
「どんな」
「えーっと…」
「今あんのか」
「え?え、あ、うん。二階に」
「着ろ」
「え」
「見せてみろ。…………そしたらどこの筋肉鍛えりゃいいかアドバイスできんだろ」
「あぁ。うん、そうだね」

「じゃあちょっと待っててね」と言って部屋を出る。途中からリンちゃんの纏う空気が冷たくなったのが気になるけど…。やっぱお兄ちゃんとしては妹の水着姿って心配になるものなのかな。江ちゃん可愛いもんね。
と、心の中で呟いてタンスに仕舞っておいた水着に手をかけた。

「やっぱりこれはちょっと…」

いくら幼馴染とはいえウエストと呼べるクビれもない、あるのは肉と脂肪の塊である胸だけの体を鏡ごしに見てこれをリンちゃんに見せるのかと考え息を飲む。
さすがにこれはマズいんじゃないだろうか。ましてや相手はオリンピックを目指すアスリート(ひよこ)だ。幻滅だったらまだいい。むしろ正座でお説教されても文句は言えないだろう。

「やめ、とこう、かな」

なんか適当に理由つけて着れなかったことにしよう。うん、それがいい。なんて自己完結してる間に「ありす?開けるぞ?」ってドアノブが回るものだから頭は真っ白になってバタバタとベッドに逃げ込んだ。

「ありす?」
「リンちゃん!驚かさないでよ!」
「悪い。何度も声かけたけど返事がないから心配になって…」

シュン、としたリンちゃんの声音に頭まで被っていた布団を鼻元までずらす。なんだか悪いことをしたのはわたしのような気さえしてきた。そのくらいリンちゃんの沈んだ姿にわたしは弱い。

「なぁ……着たか?」

普段と違うリンちゃんの視線に困惑しながらも小さく頷く。

「じゃあ、見せてくれ」
「…見せなきゃだめ?」

ここまできて往生際が悪いと思われても構わない。それよりもわたしはリンちゃんのお説教が嫌で身構えていたらリンちゃんは一瞬、ほんの一瞬だけ心臓をギュッと握り潰されたような顔をした。その表情に不意をつかれあっという間に布団は宙を舞い、天井とわたしの間にいるリンちゃんとベッドのスプリングだけがユラユラ余韻を残した。

「黒……ダレだ」
「…」
「誰なんだよッ!」
「リンちゃ」
「江じゃねぇな、ダレの為に買ったんだよッ!」
「っ」

急に激しい怒りを向けられ体が竦む。それですら今のリンちゃんには逆効果でリンちゃんが忌々しく舌打ちした、と思ったら

気付いたら、リンちゃんが目の前にいて、

リンちゃんが、ものすごく近くて、

わたし、リンちゃんとキス、してた。


最初は唇が潰れる程度に。だからたまたまリンちゃんが勢い余ってぶつけちゃったんだ、きっとそうだ、そうに違いない、そう思ったのに。
一度離れた唇はもう一度重なって、あれ、これ、えっ、ちょっ、まって、舌っ舌っ、

「ふぅ、んぁっ!」
「っ」

自分の声じゃない声にびっくりした。それはリンちゃんもだったらしく、リンちゃんにできた一瞬の隙。離れた唇。すかさずわたしは自分の口を両手で隠した。

「…俺じゃ、だめか?」
「……?」
「そう、だよな…、こんな、強引なことして」
「リン、ちゃん?」
「でも、俺、俺……ッ」

酷く傷ついたようにリンちゃんの顔が歪む。今にも泣きそうなその表情に掛ける言葉が見つからなかった。

「−−好きだ」

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