▼ みっちりな弁当箱。
「ありすー。悪い、なんか食わせて」
家に上がって来たのは松岡凛。通称リンちゃん。わたしの幼馴染です。
海外留学していたリンちゃんは地元に帰ってくるなり頻繁に我が家へご飯を食べに来るようになりました。聞くところによると寮生活はなかなか大変らしく、息抜きが主な理由ではありますが一定のローテーションで出される食事をとっていると気が滅入るからだとボヤいたことがありました。
そんなことを言われたらご飯好きとしては美味しい料理を振舞わずにはいられません。わたしは文句を言いながらも、リンちゃんと食べるご飯が好きなので、結局週に何度かはリンちゃんと食卓を一緒するのが最近の週課?でした。
「今日も辛いものー?」
「あー、ありすのキムチってまだあんの?」
「あるよー」
「じゃあそれと、あと、なんか適当に。うまいもん」
「はいはい」
「あ。それと。これ、さんきゅな」
「どーいたしまして!」と受け取ったのは大きめのタッパーがいくつか入った手提げ袋。これにリンちゃんは我が家の、というか、主にわたしが作ったおかずをみっちり詰め込み寮へ持って帰るのがお決まりなのです。
「玉子焼き、旨かった」
「何入れたかわかった?」
「桜エビだろ?」
「正解!」
なんて言ってリンちゃんと笑う。
それからわたしはキッチンに立ってご飯作り。まずはお腹空いたリンちゃんに何か食べさせないと。でないとあとあと寂しい思いをするのは我が家の冷蔵庫なのです。
わたしはエプロンを羽織りながら急いで冷蔵庫の中身をチェックする。うん、これならリンちゃんのタッパーに詰めるおかずも用意できそう。
バタンバタン、カシャンカシャンと音をたてての料理。代々受け継いだ我が家のレシピと、わたしなりの少しのアレンジと。それはまるで
「魔法みてーだな」
驚いて振り向けば机に肩肘ついてこっちを眺めるリンちゃんの姿。
「見てても余計お腹空くだけだよ?」
「いいんだよ腹減って」
お腹が空いたから我が家に来たのに、さらにお腹を空かせたいとは一体どういうことなんだろう。疑問に思いつつも香ばしい香りがしてきて意識を料理に切り替える。
「はい。本日のお通じはピーマンの鰹節和え、でございます」
「ん…うまい」
「えへへ」
「んだよ、変な顔して」
「へへ、実はさっきリンちゃんと同じこと考えてたの」
「同じこと?」
「料理は魔法みたい!」
「っ」
「だって、死にそうなくらい悲惨な顔してたリンちゃんがもう笑ってるんだもん。やっぱり料理は魔法なんだね!」
そういうとリンちゃんはぶっきらぼうに「…次」と言って、空になったお皿を差し出した。そのお皿が綺麗に完食されているのを見てわたしはまた笑いそうになったが、ここはグッと堪えて「はーい」と返事しキッチンに戻りました。
さー二品目は何にしようかな。