▼ 01
世界はいつだって自分勝手に進んでいく。
「おい」
「神田。今日、日直で…ちょっとまってね」
「早くしろ」
「うん」
誰の許可も得ずガタンッと音を立てて隣の席に座ったふてぶてしい姿に眉が下がる。それでもこうして待っていてくれるだけ、譲歩してくれているといったところか。
五分ほど粗い紙とにらめっこして、書き終えた手作り感たっぷりのノートを手に鞄を持つ。それに合わせて神田も席を立ち、一人何も言わずに急かすように先を歩き出す。
リナリー曰く、わたしと神田は「熟年カップルのようだ」と話題になっているらしい。というのも“あの”神田がわたしには大人しく従っていると噂になっているからだ。
そのせいか、神田が毛嫌いしているアレン君からは「神田に嫌がらせされていないか」と再三心配されているが、わたしから見る神田はいつだって優しくて自分の想いに真っ直ぐだ。それをわたしが言葉で上手く伝えられないから神田のワガママ侯爵っぷりを否定しきれない要因のひとつにもなっているわけだが、そのことを以前ラビに相談したら「幸せな悩みさね」と頭を撫でられた。
そう。この世界には神田だけでなくリナリー達やコムイさん、リーバーさんといった【あの世界】のみんなも存在する。
けれどここは【あの世界】ではない。
世界はあまりにワガママだと思った。