▼ 苦いシシトウも調理次第
ばたん、と閉まった扉の方からいつもの「チッ」という舌打ちが聞こえてきて振り向く。
「おかえりー」
「なんでお前がいるんだよ」
「いいじゃん別にー」
手にしていた六幻をベッドに置いて鬱陶しそうに頑丈なコートを脱ぎ始めたあたり今日の神田は機嫌が悪い。
「任務でなんかあったー?」
「なんでだよ」
「だって。機嫌、悪いから」
手にした本に目を戻す前にチラリと神田を盗み見すれば神田も同じ、わたしのことを横目でチラリと見てきて頭の端で「なんじゃこりゃ」と笑う。
「……悪くねーよ」
「そう?」
「ああ」
その声になんだか計画的犯行を思いついた罪人の笑みが含まれていた気がして、ふいに被った影の正体を疑問に思う。
「『ディナー』が待ってたからな」
「は……?」
言葉の意味が理解できずに首を傾げる余裕すらなく押し倒される体。見上げる形になった神田の悪い笑みと汗ばんだ肌にはりつく髪が徐々に近づいてきて確信する。
夏の暑さに浮かされてんだと。
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味見ばかりじゃなくて、ほら、こっちも美味しいよ?なんて言えるわけないデザート気分