【二つの顔】


「旦那ァ!こんなのの護衛とかマジ無理なんだけど」
「少しの間留守を頼むと言ったんだ、誰が乱闘しろと言った」


二人目の主人は重度のシスコン野郎
年頃の娘を一人留守番させるのは心配だと護衛を任された訳だが
先日来たばかりの奴隷に屋敷を任せてお出掛けとは…呑気過ぎはしないか


「…嬢さん何か食うか?」
「お茶の時間?じゃあスコーンにアールグレイがいいな」

俺の態度が気に入らないのか淹れた紅茶を手が滑ったと猿芝居…洗濯したばかりの絨毯に茶色い染みが広がる
床に散らばったカップの破片を拾い集めて舌打ちした
余計な仕事増やしやがって


「俺は旦那に頼まれで仕方なぐ護衛ごっこさせられてんの!いい子にしてないと…犯すぞ」
「不躾な口ね。私も兄様みたいに攻撃能力だったら…」
「治癒でしたっけ?俺と一緒の」
「ええそうよ、でも少し違うわ…私は自分の治療は出来ないもの。でも治癒能力者だったからこうして呑気にお茶が出来るのだけど」


「へぇ…母親違いってやつか?その感じじゃアンタは籠の鳥って訳…なんだ世間知らずの箱入り娘と思ってたら」
「ここに来てから一度もお母様に会えてないの、元気かしら」
「そんなん俺が知るわけないっしょ」

吐き捨てれば会話は終了。
長い沈黙に言い過ぎた罪悪感なのか、自分と似た悩みを持つこのじゃじゃ馬娘に同情してか

「…アンタの事ぶっちゃけ嫌いだけど、家族に会えない寂しさは分かる。ちょっと見に行ってみようか?」
肌の色、髪の色、仕草…きっとあの国で間違いない、初めて奴隷になった国だ。
二度とごめんだと思っていたのに、正直自分は何がしたいのだろうか…この憎たらしい娘を母親と再開させてやって何のメリットがあるのだ
主人にバレたら速攻打ち首決定だろうに…不安げに見つめる女にローブを着せて手を引いた

「旦那には内緒だかんな?@@地方行きの荷台に忍び込んだら数分ぐらい…は」
「えぇ、一分でも一秒でもいいの…」


数分の面会を成功した後日、ご機嫌な女に堅苦しいスーツを押し付けられた

「昨日のお礼よ、ねぇあなた…治癒能力者なのに戦えなんて兄様は意地悪ね。帰って来るまでにこっちの仕事を覚えましょう?」
「こんな堅苦しいスーツ着せんのも十分意地悪じゃんよ嬢さん」
「私の教科書を貸してあげるわ」
「話聞けよ」
「キョウヤは医者になりたいのよね?兄様の書斎から書類盗んで来ちゃった」
「バレたらヤバいじゃん」
「あなただって自分の首が危ないのに私を外に出したわ、私達共犯者でしょ?…勉強出来るように兄様に私から言ってあげる…だから」



私をたまに連れ出してね?


いいぜ、何処へでも連れて行ってやるよ…お前が気が済むまで…いやいっそ一緒に逃げてやれば良かったのか

「またな   、次は@@国だ…安らかに眠れ。お前と過ごした時間忘れない」


三人目の主人にはハウス奴隷を命じられた、苦手だった敬語を徹底して大人しく従順な奴隷を演じ、城外では裏切り者達を片っ端から始末した。

さてこのご主人様は潰そうか、守ろうか




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