* 彼女の唄声 | ナノ


現在 過去 未来 (幼少期)

珍しくマサラに積もるほどの雪が降った日のこと。
炬燵でミカンを食べていた自分を呼びに来たのは、既に雪にまみれて頬と鼻先を真っ赤にさせたヒヨリとグリーンの二人。
こんな寒い日に外に出るなんて本当は嫌だったけれど、楽しそうにニコニコ笑う幼なじみ達を見ていたら身体が勝手に動いていた。


「よーし!じゃあ雪玉投げして遊ぼうぜ!」
「あのね、グリーン。それ雪合戦って言うんだよ」
「うっせ!わざとだ!」
「へー本当にー?」
「…く、くらえっ!」


ヒヨリにからかわれたグリーンが、手に持っていた雪玉を思い切り投げつけるとべしゃりと音を立ててヒヨリの顔にぶつかる。
それを見たグリーンは、自分でもやり過ぎたと思ったのか「逃げねーのがいけないんだからな!」と焦ったような表情で一歩後ずさった。


「…うっ」
「………グリーン」
「ばっ、なに泣いてんだよ!ヒヨリが悪いんだぞ!」
「ううー」


雪で濡れた顔を拭ってやると、くしゃりと顔を歪めて泣きそうにしている。……あ、泣いた。
メソメソと鼻を鳴らすヒヨリの手を引いてグリーンと自分たちとの間に棒切れで線を描くと、不思議そうな顔のグリーンと目があった。


「…俺とヒヨリ、グリーンね」
「なにがだよ」
「雪合戦のチーム」
「2対1って卑怯だろ!レッドは審判だぞ」
「…ああ、俺がいるとグリーン、勝てないか」


人のことを誘っておいてこいつは審判をやらせるつもりだったのか。
大きなため息を吐きながら、わざとグリーンにも聞こえるようにそう呟けば案の定「あとで泣いても知らないからな!」と捨て台詞を残して線の向こうへと駆けて行った。


「…ヒヨリ、顔大丈夫?」
「もう平気」
「ん、じゃあグリーンに仕返ししよう」
「うん!」


こうして、雪合戦開始のゴングが鳴った。
一人でもなかなか善戦していたけれど、なにせこちらは2人組み。

――結果は、雪まみれになったグリーンの悔しそうな顔を見れば言うまでもない。
ヒヨリの敵討ちだから負けるわけにも、もちろんこちらが一人だったとしても負けつるもりもなかったけれど、やっぱり勝負に勝つのは嬉しい。


「くそっ、今日は風向きが悪かったんだ…」
「雪合戦に風向きは関係ないと思うんだけど」
「うるせーぞ!」
「……ヒヨリを泣かせたらお前も泣かせる」
「泣かねぇよ!!」


あーあ、レッドなんて呼ぶんじゃなかった!と雪を蹴ったグリーンをヒヨリが諌めて、それで更にふてくされて。
そんな様子を見て笑っていると、不意に辺りが真っ白に染まっていった。
ほわほわとした意識の中、最後に見たのは二人の笑顔。




「――よ―」
「―だ―――か」
「……ッ」


何だこの声は…と薄目を開けると、そこには驚いた顔をしたヒヨリとグリーンの二人がいて、思わず辺りを見渡す。大丈夫、此処は自分の部屋だ。
…だったらこいつらは人の寝顔を覗き込んで一体何をしていたのか。


「起きた!」
「起きたな!」
「……夢…?」


ああ、そうか、さっきまでのアレは昔の夢。
…懐かしいな、と目を細めれば二人は「まだ寝てる?」「寝言か」と首を傾げて不思議そうにしていた。
…本当に、こいつらはあの頃と変わってない。


「…もう起きてる。何の用」
「あ、そうなの!朝起きたらね雪が降ってたからさ」
「昔みたいにまた雪合戦でもやろうぜって話になってな」
「だからレッドも一緒にやろう!」
「ほら、起きた!もう昼だぞ、年寄りかテメェは!」
「……っ」



現在 過去 未来

(…雪合戦、覚えたんだな)
(あぁ?)
(そういえばグリーン、昔雪玉投げって言ってたよね)
(し、知るか!)


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