* 彼女の唄声 | ナノ


キミのぬくもり (ピカチュ視点)

「くちゅんッ!」
「あっ!ピカチュウがくしゃみした!」
「ぴかー?」

鼻がむずむずしてくしゃみをしたら、それを聞いたヒヨリちゃんが向こうからパタパタと駆けてきた。
ただのくしゃみなのに心配性だねと、相変わらず優しいヒヨリちゃんに目を細めると「風邪かなぁ、大丈夫?」と僕の両脇に手を入れてグッと目の前まで持ち上げられる。
至近距離にヒヨリちゃんの顔があって、ちょっとドキドキした。

………のだけど、その向こう。ヒヨリちゃんの後ろに立って無表情にこちらを見ている御主人を見つけて、ハッと慌てて顔を逸らせた。
御主人を差し置いてヒヨリちゃんと仲良くしたらどうなるか…そんなこと、いくら学習装置がなくても学習できる。

「最近寒いもんね、…あ!今度マフラーでも編んであげようか?」
「ぴぃか…」
「ん?」

ヒヨリちゃん気付いて!マフラーは僕じゃなくて御主人に編んであげて!
本当は僕だって凄く欲しいけど、それは後ろで羨ましそうにしてる御主人に言ってあげるべきだ。

「くしゅん」
「ピカチュウは黄色だから、何色にしようなかぁ。カッコイイのにしてあげるね!」
「ちゅう!」
「くしゅ」
「あ、そうと決まれば早く毛糸買いに行かないと」
「ぴかー…」

ヒヨリちゃん、御主人が後ろでくしゃみしてちょっとアピールしてるよ!
二回もくしゃみしたよ!凄くマフラー欲しそうにしてるよ!
すりすりと頬を寄せてくるヒヨリちゃんに少し照れながら、御主人の方を見てみるとタイミング良くばっちりと目が合った。
…シロガネ山で強敵と対峙した時と同じような凄く険しい顔をしていた。

「ッぴか!」
「わ、ピカチュウ!?」

半分泣きそうになりながら、ヒヨリちゃんの腕をすり抜けて御主人の足元へと駆け寄れば少し表情が和らいだ気がしてホッとする。
ここでくしゃみをすれば御主人もマフラー貰えるよ!頑張って!

「あ、レッド!今ね、ピカチュウが寒そうにしてたからマフラーでも編んであげようかなって思ってたんだけど」
「ぴぃか」
「……。」
「何色が似合うなぁ」
「……くしゅん」
「あれ、もしかしてレッドも風邪気味?」
「……くしゅん」
「わ、大丈夫?もし良かったらレッドにもマフラー編むよ」
「…ありがとう」

やったね御主人!と顔を上げて見れば、先ほどとはまるで別人の優しい表情の御主人がいた。
だから今回はちょっとくらい感謝してよね、御主人!

END

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