* 彼女の唄声 | ナノ


その思い出は忘れましょう

セキエイ、ポケモンセンターにて。

久しぶりに会ったヒヨリの両脇には、ひどく不機嫌な番犬が二匹くっついていた。
まぁ関係ないかと懐かしい思い出話しに花を咲かせていると、段々眉間のシワが深くなっていく。まるで俺が親の仇のようだ。
めんどくせぇなぁと肩を竦め、ヒヨリの番犬たちに目を向けた。

「なぁ、お前らその目やめたら?」
「なにが」
「いやだから、あからさまに敵対視し過ぎだろって」
「おいレッド、やめろってよ」
「グリーンこそ」
「お前らっつてんだろ」

いつも通りだけどなんて鼻を鳴らす赤い帽子のレッド君は、ヒヨリが不思議そうに顔を覗き込むとスッと無表情に戻った。なんだそれ。
グリーン君に関しては、もうその嫌そうな顔を隠すことなく前面的に主張していてまた分かり易いというかなんというか。

「レッドもグリーンも、好きなところ行ってきていいよ?久しぶりにデンジ君と話したいし、多分長くなると思うから。」
「別にやりたい事なんてねぇし。暇だからここでその話ってやつを聞いててやるよ」
「俺も」
「まぁ二人がそれでいいなら構わないけど……」

仕方ないとでも言う風に眉尻を下げるヒヨリに、うちのジムをまた改装したことを伝えるとその顔は一気に変わった。
目を丸くして驚いたと思ったら、今度はキッと睨みながら「あれで最後だって言ったでしょ!?」と怒り顔。
そんなこいつの表情がコロコロ変わるところが結構気に入っていたりする。

「だってつまらないだろ」
「前回街全体に多大な迷惑が掛かったこと忘れちゃったの?」
「覚えてるけど、今回はそうならないようにちゃんと考えてやったから」
「デンジ君、前もそんなこと言って停電させたよね」
「ま、そういう時もあるさ」
「笑って誤魔化すのよくないよ!」

もうナギサの住人じゃなくなったくせに停電の心配をしてプリプリ怒ってる目の前のこいつが面白くて、思わず笑ってしまう。
そんなに俺って信用ないか?

「デンジ君そろそろ落ち着きなよ……私何度あの停電で困ったことか」
「お前が側で監視しててくれたら俺の改装癖も落ち着くかもな」
「またすぐそういう事言う…!」
「ははは」

両脇の二人の拳が固く握り締められているのを見付けると引っ込んでいた笑いが出てきてしまう。
こいつら分かり易すぎだろ、いいのかこれで。

「はー。お前がカントーに帰ってからもう暫く経つんだな。」
「そうだね、でもデンジ君と会えて嬉しいよ」
「懐かしいな〜、よく手作りアップルパイ持ってジムに応援に来てくれたの嬉しかった」
「嬉しいなんて今まで言ってくれたことなかったのにどうしたの?!」
「や、ほら。俺って照れ屋だから」
「そんなの信じないよ」
「あれまた食いてぇな〜、チャレンジャーが来るまでの間お前とのんびりアップルパイ食べてる時間、結構好きだったんだぜ?」
「……へ、へぇ〜。」
「お前はそう思ってくれてなかったのか…」
「えっ、いや!そんなことないよ!私だってデンジ君と話すのすごく好ーー」
「おっ、でっかい虫発見!!」
「……多分Gだ。」
「ええええええええ!?!?」

その瞬間のあいつらの行動は早かった。
少し照れたように口を開こうとしたヒヨリをグイッとうしろに引っ張ると、「Gだ!」と喚きながらそのまま目隠しして俺から無理矢理引き離す。
Gってシンオウじゃなかなか見ないけどあれだろ?ゴキブリのことだろ?いやここいねーから。あいつらどんだけ「好き」って単語に敏感なんだよ、アホか。

ヒヨリはヒヨリで、ゴキブリが苦手らしく慌てふためきながら目隠ししているレッド君にしがみついていた。
あいつもよくこんなんに騙されるなぁ……。

一方のグリーン君はGだGだと騒ぎながら俺の方に近付き……「うちのバカがそっちで色々お世話になりました」と、メンチを切って戻って行った。

「っていうかレッド手どけてよ!前見えない」
「まだGいるけど」
「……あ、じゃあそのままで……大丈夫です…」
「ならもうこのまま外出るぞ、気分転換だ。気分転換。」
「え、あの、デンジ君は?」
「あいつならG見て逃げてったぜ」
「……もういないよ」
「ええええ本当!?ちょっとデンジくんーー!」
「そうはさせるか!行くぞレッド!」
「わかった」

見事なコンビネーションでヒヨリを連れ去っていく二人に、思わず乾いた笑いが出てきた。
ホンッットにヒヨリには手を焼かされるというか何というか、あの番犬二匹ってどうやったら攻略出来るわけ?
俺めんどくさいの嫌いなんだけどなぁ。

「おーいデンジ!お前に聞きたいことがあるんだけどよ」
「おうアフロ、丁度いいところに来たな。そのアフロ千切ってもいいか?いいな?」
「ってええええお前なんでそんなにイラついてんの!?良くねぇよ!!阿呆か!!」
「覚悟しろよあんのクソガキども」
「ぎゃーー!やめてーー!!」

静かになったポケモンセンターにて、赤い何かがハラハラと散りゆくのであった。


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