* 不規則な心音 | ナノ



ざわざわと煩い食堂で、何故だか私は女子団員達に物凄い勢いで詰め寄られていた。それを見て面白そうに囁き合ったり、我関せずといった感じでうどんを啜ったりの男共。
少しは助けてくれても良いのではないか、と近くで定食を食べていた団員Aを見れば、目が合った瞬間に光の速さで顔を背けられた。


「ちょっと、一緒に来てちょうだい!」
「でもご飯が…」
「後でで良いでしょう!?」


ガッチリと両腕を掴まれて食堂の外にある人通りの少ない廊下まで連れてこられた。…拉致された意味は分からないけど、私今女の子に腕掴まれてる?
と言うことは、まさか


「わ、私と友達になってくれるんですか!?」
「この状況でよくそんな事が言えるわね」
「…違った…」
「…貴女、もしかして何で連れて来られたのか…分かってないの?」
「友達記念パーティー?」
「ラッタ、必殺前歯喰らわせてやりなさい」


ききっ!とリーダー格の女の子の足元で待機していたラッタが目の前へ躍り出る。アジト内でこういうことするのって規則違反だよね、と言うかこの状況、なに?


「ちょっと待って下さいよ、私何か粗相でも…」
「しらばっくれないの!」
「ええっと…」
「貴女、今朝ランス様の部屋から出てきたでしょう!?」
「私達バッチリ見ちゃったんだから!」
「や、でも幼なじみだし…」
「関係ないわよ!」


その声を皮切りに騒ぎ始めた女子団員達に意味が分からず首を傾げていると、その態度が気に食わなかったのか一人の女の子にグイッと胸ぐらを掴まれた。
…取り敢えず、苦しい…


「何よへらへらしちゃって!ランス様はお優しいからアンタみたいなのを気遣ってくれてるだけなんだから!自惚れないでよね!」
「幼なじみだからってランス様に甘えすぎなのよ!」


ランスが女子団員に凄くモテているのは知っていたし、よくプレゼントを貰っているのを見かけもする。
でもまさか私が彼女達の邪魔者になっていただなんて思ってもいなかった。と言うのも私とランスは端から見ても分かるほどに、甘い関係でもないし、寧ろ毎日のように罵倒されパワハラを受けているのは最早周知の事実だったから。

しかし、だからと言って私は幼なじみだからとランスに近付きすぎていたのではないだろうか。
…やっぱり距離、置いた方がいいのかな。と、そこまで考えて少しだけ、悲しくなった。


「何とか言いなさ…」
「あらぁ、ナマエじゃないの」
「…ア、アテナ様!?」
「どうかしたのかしら、皆揃って」
「いえ、少し仕事の話を…もう終わりましたので失礼しま、す!」


思いもよらぬ人の登場で、サァッと顔を青くした女子団員達はバタバタとその場を立ち去って行く。そしてリーダー格の女の子がアテナ様の横を通り過ぎた瞬間、我らが幹部は「ああ、」と思い出したように口を開いた。


「あたくし、思うんだけどねぇ。」
「は、はい」
「そんな優しいランスに目すら掛けてもらえないって言うのに、…貴女達よっぽど、自惚れてるのねぇ」
「…っ!」
「言っておくけど、ランスは貴女達の事なんて知らないと思うわよぉ」


クツクツと酷く楽しそうに笑うアテナ様に背筋が凍った。酷い、酷すぎる。やり方は少々えげつないが、彼女達も裏を返せば只の恋する乙女なのに。
顔を真っ赤にして走り去る女の子達を見送って、未だに綺麗な弧を崩さないアテナ様に駆け寄った。


「アテナ様!」
「あらナマエ、奇遇ねぇ」
「奇遇って…ずっと聞いてましたね…」
「あたくし、修羅場って大好き」
「知りませんよ!…た、助けてくれたのは嬉しかったです、けど。」
「…貴女、本当に可愛いわねぇ」


先程とは違う優しい微笑みを湛えたアテナ様は、優雅に私の手を引いた。


「お茶、しましょうよ」


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