* 不規則な心音 | ナノ


そう言いながらも突然バリバリと煎餅をかじり始めたナマエに視線を送ると、先程までの真剣な表情は今現在、海苔煎餅から剥がされた海苔へと向いていた。


「…海苔、あげる」
「いりません」
「あまり好きじゃないんだもん」
「後始末くらい自分でやりなさい」


困ったような顔をしたナマエによって、今まで所在なさ気にぶらぶらしていた海苔は、包み紙にそっと置かれた。


「…それで、一体何に悩んでいるんですか」
「大したことはないんだけどね」
「ええ」


「―女の子の友達が出来ないの」

「……本当に大したことないですね、直ぐ様私の目の届かない所まで消え去ってください」
「えええ!酷い!」
「ゴミと一緒に捨ててしまいたい」
「……何というか、その…」
「何です」
「冷酷、だね…」


笑いを噛み殺したように震えるナマエに向かって先程コイツによって飲み干された湯飲みを投げ付ける。
しかし流石幼なじみといったところか、どうやら私の行動を予想していたらしく難なく避けられてしまった。

ガシャンと湯飲みの割れる音と共に、女性団員の悲鳴が聞こえたが特に気にはならない。


「危ないなぁ」
「貴女が避けるからでしょう」
「そりゃあ避けるよ!怪我したら危ないし、この距離で当たったら重傷だもん」
「既に頭が重症ですがね」
「尻プリンめ」
「何か言いましたか」
「いえ、何も」


そんなことを一々私に言いに来るなんて本当に馬鹿な奴だと心の中でで溜め息を吐く。
余計な時間を費やしてしまった…。


「ランスまた嫌なこと考えてる」
「何故わかるんです気持ち悪い」
「私たち親友じゃん」
「ふざけるな」
「そ、そんなに怒らなくても……」


わかりましたー、もう持ち場に戻りますー。とふてくされて煎餅の箱を抱え出ていこうとするナマエを見送る。
……ああ、そうだ。


「ナマエ」


そう呼び止めると、勢いよく振り返ったナマエは馬鹿みたいに満面の笑みを湛えていて、引き留められたのが余程嬉しかったのだろうと思った。
手招きをするまでもなく、嬉しそうに小走りで戻ってくる。そして千切れそうな程にブンブンと振られている尻尾までもが見えてきた。


「なに!?」
「引き留めて悪かったですね」
「いいのいいの!私に女の子紹介してくれるの?」
「生憎私は女性に興味がありませんので」
「…………」
「何ですそのゴミをみる様な目は、別に男性が好きだという訳ではないですからね」
「よ、良かった…」
「それで、ナマエに渡したいものがありまして」
「エンゲージリング?」
「くたばれ」
「酷い…!!」


ガラリと引き出しを開けて中に入っていた紙の束を取り出し、きょとんとしているナマエの目の前に突き出した。


「下らない内容だったら書類地獄だと言いましたよね?」


しばらく何を言われているのか分からないといった様子でポカンとしていたナマエは、どうやら漸くその意味を理解したようで十センチ程の束をまじまじと見て、その場に凍りついた。


「明後日までには、終わらすように」


貴女、邪魔ですよ

何時までそこで凍り付いているんです

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