* 不規則な心音 | ナノ



最後にもう一度執務室を覗いてみても、いつもの席にランスはいなかった。もうアジト内はくまなく探したというのに、ランスは何処へ行ってしまったんだろう。
…アポロ様に、聞いてみようかな。





「失礼します、ランス知りませんか?」
「本当に失礼ですねお前は、ノックくらいして下さい。」
「すみません急用なんです」
「…因みにランスはいませんよ、外に出たがってたので買い物を頼みました」
「人の上司を犬みたいに…」
「とにかく、喧嘩したなら仲直りしなさい。ランスがあのままだと使い物になりません」
「……はぁ」
「じゃあ、宜しくお願いしますね。」


気持ち良さそうなふわふわの絨毯で伏せていたヘルガーを引き連れて、よく分からないメッセージと私を残して部屋を出ていってしまったアポロ様に戸惑いが隠しきれない。

帰って来るまで待っていれば良いのかな、と辺りを見回すと本棚にエネコとデルビルのぬいぐるみが飾ってあるのを発見した。
…か、可愛い。


「うわ、この本棚ペルシアンシールも貼ってある…あ、デルビ」
「失礼します」
「………あ」
「…あ」


エネコのぬいぐるみを抱き締めているところにノックもせずに入ってきたのは、ずっと探し回っていたランスで、予想外の出来事に目が合った瞬間、お互いにフリーズした。


「…仕事は、どうしたんです」
「ランスを探してたの」
「アポロの部屋でねぇ、」
「あのね」
「そのぬいぐるみはアポロに貰ったんですか、肝心の彼はいないようですが。お邪魔でしょうし私は行き……」
「話を聞きなさい!!」


エネコの尻尾を掴んで、ランスの顔を目掛けて投げ付けると、見事に当たってくれた。
驚いているランスに、大股で近付いて頭一つ分高い位置にある彼の顔をグッと見上げる。


「…なんですか」
「私、自分のことばかり考えて、ランスのこと傷付けた。…ごめん、なさい」
「もう良いと言ったでしょう、話は終わりです」
「幼なじみっていう関係が崩れちゃうのが、嫌だった。」
「…だから」
「ランスが大好きだから、嫌われたくなかった」


意味が分からないといったように眉を寄せているランスを見つめる。
ジワリ、とまた涙が滲んできてランスの顔がぼやけてきた。


「…気まずくなるくらいなら、幼なじみのまま、ずっと一緒にいたかった。ランスが私のこと好きって言ってくくれた時、本当は凄く嬉しかったの。」
「……」
「でも、また女の子たちに怨まれるんじゃないかとか、……私、こんなだから、やっぱり後で飽きられるんじゃないかって、思って」
「…この馬鹿」
「知っ、てる。」
「本当に、救いようのないくらい、馬鹿ですよ、ナマエ」


まだそう経っていない筈なのに、凄く久しぶりにランスに名前を呼んでもらえた気がした。
ただの自分の名前が特別な言葉のように聞こえて、思わず俯いていた顔を上げようとすると、―フワリと、暖かな何かに包まれて視界が真っ暗になる。
そうか、抱き締められてるんだ。

…なんて、冷静に考えようとすればするほど、心臓は激しく動く。
私の心臓過労死したらどうしよう…


「誤魔化してばかりだから、幼なじみ以上としては見れないという意味かと思いました。」
「…ごめん」
「いっそ心中してやろうかと本気で考えたんですよ」
「それは、流石に嫌だな」
「これだけ一緒にいて、今更名無しさんのこと嫌いになる筈ないじゃないですか。」
「恋する乙女は考えが足りないの」
「ナマエだけですよ」
「…違うもん」


真っ赤な顔を隠そうと、ランスに抱き着いて顔を埋める。
今まで意識しないように押し込んでいた気持ちが爆発してしまった今、彼を直視することなんて出来ない、恥ずかし過ぎる。


「顔上げなさい」
「やだ」
「早く」
「むり」
「怒りますよ」
「もう怒ってるじゃん」
「………出て行きなさい」

「「…あ」」


聞き覚えのあるその声に恐る恐る振り返ると、眉間に皺を寄せて仁王立ちするアポロ様がいた。
随分とご立腹の様子だ。


「…人の部屋でイチャイチャしないで下さい、仲直りの場として提供しただけです………よ」


そして彼の視線が、ある一点を捉えて、見開かれた。


「…ぬいぐるみ、投げました?」
「散歩したいって言ったから…」
「……出ていけ!!」



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