* 不規則な心音 | ナノ



どうしよう。さっきまでの冷たい笑顔とは違い、凄く嬉しそうな表情で私を見つめてくるランスに、ドキリとした。
なんでこんなに嬉しそうなの、なんて思う程私は鈍感ではない。

だけど、ホラ、勘違いだと恥ずかしいからね、一応。


「…ほ、本当に?」
「ラムダをミンチにしてやりたいくらいにはムカつきました」
「でも、私」
「好きですよ、ナマエ。幼い頃からずっと」


いつもの険しい表情は何処へ飛んでいってしまったのやら、今目の前にいるランスは形の良い唇をユルリと曲げ、目を細めて私を見ている。
なんなの、私こんなランスなんて知らない…!
と言うか今、私、人生初の告白、受けてる?ランスから?

相手があのランスだと言うことは分かっているのに、いや、分かっているからこそ、まるで燃えているかのように顔が熱い。早鐘を打つ心臓を治めようと深呼吸し、何か話そうとするも、口はカラッカラで上手く喋れない。


「顔、真っ赤ですよ」
「うるさい」
「その反応は脈ありと見て良いのですか」
「……う、いや…」
「なんです」
「冗、談だよね?だって幼なじ……な、なんちゃってー」


その瞬間、ギロリと睨み付けられて金縛りにあったかのように動けなくなる。例えるならあれだ、蛇に睨まれた蛙。
この状況を打破するために私は何をしたら良いのだろうと思考を巡らした。
…とりあえず、いつもみたいに誤魔化そう。


「な、なんでまた急に…ほら、今仕事中だし」
「ナマエがラムダなんかとベタベタしていたからでしょう、貴女が悪いんですよ」
「ベタベタなんてしてない!ランスの話……」
「はい?」
「…プリン美味しいよねって、話してました。」
「叩き付けてあげましょうか」


“お前、ランスのこと、どっかで意識してんだろ?”


なんて言われて赤面してました、なんて、言えないもの、絶対。
あのオジサンはなんて厄介なことをしてくれたんだ、そしてランスの刺すような視線が痛い。


「えっと、今朝ランスの部屋から出てきた経緯を、説明していました」
「私が既に説明した筈なのですが」
「……ラ、ランスの話は信用出来ないって」
「へえ」
「だから本当に…」
「わかりました」


そう呟いて静かに椅子から立ち上がったランスは呆ける私を置き去りにその長い足でドアの方へと向かう。
声を掛けることも出来ずに見つめていると、ゆっくりと振り返ったランスの冷めた瞳と目が合った。


「――もう良いですよ、」
「……は?」
「全部、忘れて下さい。」
「何を…」
「私と貴女はただの幼なじみ、そして上司と部下です。そうなんでしょう?手間をとらせてすみませんでしたね、早く貴女も仕事に戻って下さいね。」
「ランス」
「誤解されて困るのは貴女ですよ、部下なら部下らしく“様”くらいつけたらどうです」


そう一気に捲し立てられて、何も言えなくなる。名前を呼んでくれなくなったのも、幼なじみとして見ることを拒否されたのも、全部、私が悪いのに。
何故だか胸が痛んで、ジワリと涙が滲んできた。

ランスは真剣に好きだって言ってくれたけど、私はそんな気持ちを無視して誤魔化したのだ。
自己防衛のために。

ここに来て、ようやくラムダ様に言われたことが分かった。
―ずっとずっと心の隅っこで押し殺してきた、私の気持ち。無理矢理知らないフリをして、自分も騙し続けてきた。
呆れちゃう、ね


またランスを慕う女の子たちに嫌われてしまう。そしてランスとの今まで築いてきた“幼なじみ”と言う関係が崩れてしまうのではないか。

だから、嫌だった。

今日も誤魔化し続けたらいつもみたいに、湯飲みを投げて、笑って、終わりになるかと思っていたのに。

私は馬鹿だ。


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