「あ、このケーキいつも行列が出来てるとこのでしょ」
「流石、食い意地張ってるだけありますね」
「う、うるさいなぁ、流行に敏感なだけだよ」
フォークを片手に眉を寄せるナマエの前に紅茶を置くと、先程までの皺は何処へ行ってしまったのやら直ぐさま笑顔になり、噎せかえる程の柑橘系の香りを吸い込んでうっとりとしていた。
「いい香り」
「そうですか」
「私ランスの淹れる紅茶以外もう飲めないかも…」
「大袈裟ですね、熱いから気を付けて飲んで下さいよ」
「はーい」
下らないトーク番組をBGMに、仕事のことや他愛ない話をする。まあ殆どはナマエの同性にモテたいと言うよく分からない内容だったのだけれど、それでも気が付いたら深夜を過ぎていた。
既に何杯目かのティーカップを差し出してにっこりと催促するナマエに、カフェイン中毒で死にますよ。と小さく忠告しておいた。
「何故だろう、眠くない」
「それだけカフェインとれば今日はもう寝なくても良いんじゃないですか」
「わ、私襲われそうな予感!」
「確か、今月中に終わらせる書類がまだ残っていましたね」
「げげ」
「眠くないのなら終わらせてしまいましょうか」
「あ、急に眠気が…」
わざとらしいフラフラとした足取りで私のベッドに倒れ込んだナマエを見て大きく溜め息を吐く。
なんて図々しいのでしょうか。
「寝るなら自分の部屋へ戻りなさい」
「…只今寝ているので答えられません」
「なら私も寝ます」
「ここは定員オーバーですよ」
「変な寝言ですね、いいから大人しく場所を開けなさい」
「んー…」
電気を消してから眠たそうにごろんと転がったナマエを押し退けて隣へと滑り込む。
本当はナマエを帰した後にシャワーを浴びてから寝るつもりだったのですが、…しょうがない、明日にしますか。
「おやすみランスー」
「潰さないで下さいよ」
「…はーい」
それにしても、いくら幼なじみと言えこんなに安心しきるのは少しばかり危ないのではないのだろうか。
―あまりにも不用心過ぎる、眠くないと言っていた癖に早々と微睡み始めた幼なじみに、そっとキスを落としたのだった。
「ん」
「起きてしまいましたか?」
「……んー」
「なんて色気のない…」
まあ悪くはありませんが時間はいくらでもあるのですから
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