* 恋は盲目 | ナノ


4-2

「それじゃあ皆、仕事頑張ってね」


副社長が一言そう言うと、私への嫌な視線を忘れることなく残して皆は散って行った。ああ確実にコレとばっちり!皆見る目ないんじゃないのかな、本当に。
ムッとして黙って先に歩き出すと、私の失礼な態度を特に気にしていないのか副社長は長い足を自慢するかのようにあっという間に早歩きの私に追い付いた。
あ、今苛々ポイント1貯まった。10ポイント貯まったら何しようかな、憂さ晴らしに極秘情報とか流してやろう、うん。


「ねえミズキちゃん」
「なんです」


子供のように興奮気味に私の顔を覗き込む副社長に、不覚にもドキリとしてしまった。いつもの作り笑いとかがなければただのイケメンなのだからしょうがない、私だってテレビに出てくる俳優は恰好良いと思ってるし、副社長も似非紳士でなければ私も女の子たちに混ざって噂話くらいはしていたと思うのだ。
…まあ、つまり、そう、回りくどくなってしまったけれど今の副社長は何故だか生き生きとしていて、先程まで感じていた筈の嫌悪感は何処かへ行ってしまった、少しだけ。


「このポケモンは君の手持ちかい?」
「はい、そうですが…社内では禁止でしたっけ」
「そう言うことじゃなくて、見たことないポケモンだ…興味深いな」
「ああ、確かにホウエンには居ませんからね。…ルカリオっていうポケモンなんですよ」
「へえ…、恰好良い」


まるで子供みたいにルカリオのことを訊ねてくる副社長は目が輝いていて少し可愛いだなんて思ってしまった。しょうがない、さっきの苛々ポイント一つ消してあげよう。
入手場所や技などを教えてあげると満面の笑みで応えてくれて、彼の方が年上である筈なのに変なの、と思わず私も頬が緩んでしまった。


「因みに、鋼と格闘を併せ持つタイプなんですよ」
「鋼!?」
「え、ええ、ハイ」
「なんて素晴らしい!あの輝き、美しさ、そして強さを兼ね備えた鋼は全タイプの中でも秀逸だと思うんだ、特にメタグロスなんて…」


今までにこやかに話を聞いていた副社長が、鋼タイプの話になると突然人が変わったように喋り始めた。何これ、本当に同一人物?偽物ではないかと、そう思わずにはいられない程の豹変ぶりで、さっきまで作り笑い云々で苛々していた自分を急に馬鹿らしく感じてきた。よく考えてみれば本当の彼を見ようとせずに決め付けていたのは確かに、自分だ。
知ろうとしない癖に相手のことを悪く思うなんて私って案外人の事を言えないくらいの大馬鹿者なのかもしれない。


「ねえ副社長」
「何だい?」
「私もね、鋼タイプ大好きですよ」


今までの謝罪の意味も込めて微笑むと、彼は至極嬉しそうにやんわりと目を細めたのだった。


( 愚か者の終焉 )


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