* 恋は盲目 | ナノ


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自分の少ない荷物を纏めて、段ボールに詰める。ただそれだけの作業なのにまるで自分の生気までが荷物と一緒に吸い込まれていくように感じる、でもそれはあながち間違いではないだろう。何せこの荷物を全部詰め終わったら私は秘書室へと移動しなくてはならないのだから。
そう、秘書室。つまりは副社長室に隣接されている、今日からの私の仕事部屋。神様は何て残酷なのだろうか、この会社で一番嫌っている人物と四六時中一緒に行動しなければならないなんてある意味拷問、苦行だ。…まあ良く考えるとこの不景気、クビよりはマシなのかもしれないと思い始めては来たのだけれど。……うん、つまりね、お給料が違う、今の倍。今までと同じだったら確実に辞めてたけど、まあ現金な私は見事に揺らいでしまったという訳なのだ。


「…所詮私もその程度だったのか」
「さっきから何ブツブツ言ってんだ、お前の迎えが来てんぞ」
「お迎えって誰が………うわぁ」
「さっさと行ってやれ」
「はーい、あ、今までお世話になりました。」
「おお、頑張れよ秘書さん」


万馬券片手にラジオの準備に勤しんでいる上司の姿を見るのもこれで最後かと思うと、何故だか急に寂しくなってくる。まるで卒業式みたいだな、なんて。
見慣れた後ろ姿に小さく頭を下げて段ボールを抱える。うんダメだ流石にこれは重い、本とか詰め込み過ぎたかなぁと小分けにしなかったことを少しだけ後悔するも後の祭りなのだけれども。
チラリと入口を見れば我らが副社長殿が早速女の子たちに囲まれて微笑んでいた。私はアイツのせいで今困っていると言うのに自分はハーレムだなんて何という奴なんだ。だからと言って待たせるのは人としてどうかと思うけれども今手の空いていそうな人もいない。
…なら、しょうがないかな。


「ルカリオ、お願い」


バッグからモンスターボールを取り出してこっそりと相棒に登場してもらう。今日くらいは、まあ大目に見てほしい。うん。


「この荷物、持てる?」
「がう!」
「頼もしいな、ありがとね」


自慢気に段ボールを抱えるルカリオの頭を撫でて、私も自分の荷物を持つ。さあ目指すはあの副社長を中心とした人の…と言うか女の子たちの輪。今からめげそうだけれど私の味方であるルカリオもいるし、きっと大丈夫。
逃げたくなるのをグッと堪えて、カツカツお気に入りのヒールを鳴らしながら侍よろしく敵陣営へと飛び込んだ。


「お待たせしました、副社長」
「やあ、おはよう」



 

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