* 恋は盲目 | ナノ


2−2

「今、君何て言った?」
「自分勝手と言いました」
「いや…その前に」
「作り笑いばかりだと。それが何か」


どうせクビになるのなら、堂々と対抗してやろうではないかと、目の前の男を睨み上げる。しかし、私の視線を待っていたのは予想外にも彼お得意の作り笑いではなく、きょとんとしたような、何というか、初めて見る表情だった。


「…僕が作り笑いだって、いつから気が付いてたの?」
「気付かれないと思ってたなんて御目出度い頭ですね。そんなの直ぐ分かるに決まってるじゃないですか」
「でも女の子は皆これに騙された」
「あんな頭の軽い集団と一緒にしないでくれませんか?」


初めて見た彼の表情は、まさに新しいオモチャを手に入れたばかりの子供みたいで、少しだけ驚いた。いつもどこか人の事を見下している感じがしていたからか、余計にそう思ったのかもしれないけれど、とにかく、新鮮だったのだ。


「ねえ、どうして、分かったのか教えてよ」


本当に子供みたいなキラキラした瞳で見つめてくるから、なんで怒っていたのかを忘れてしまいそうで怖い。が、何とか耐えてエレベーターのランプを見ると、目的地はもうすぐそこだった。
…これが最後だし、教えてあげようか。


「完璧な笑顔なんてないんですよ」
「分からないな」
「簡単です」
「と、言うと?」


3、2、1、ピンポン。
僅かな振動を伴い、頭の中のカウントぴったりに開いたエレベーターから、副社長を1人残して素早く出る。彼も一緒に出てくるものかと思っていたのだけれど、意外にもその場から動く様子はなかった。


「目も口も一緒だから」


だから、怖い。と、果たして私の声がちゃんと彼に届いたかどうかは分からないが、鉄のドアが閉まるその瞬間。
―僅かな隙間から、彼がユックリと微笑むのが見えた。


( 白羽の矢の行方 )


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