* 恋は盲目 | ナノ



エレベーターの扉が閉まれば、ツワブキ ダイゴがすかさずボタンを押して無情にも鉄の塊はゆっくりと上昇してゆく。
彼から大きく二歩下がり十分に距離をとってから安堵の息を吐く。このまま何もなく終わればいい。
チラリとツワブキ ダイゴを盗み見れば、彼も丁度こっちを見ていたようでバッチリと目が合い、そして背筋も凍る程の完璧な笑顔を向けられた。
…凄く、嫌な予感がする


「ねえ、君に聞きたいことがあるんだ」
「…はい」
「僕のこと、嫌いでしょ」
「そ、んな…こと」


ないですよ、と言いつつ目が泳ぐ。私は良くも悪くも昔から嘘が苦手なのだ。
しかし、一応副社長だと言うことで気を悪くしていないものかとツワブキ ダイゴを見上げると、彼は満足そうに微笑んでいた。


「そっか、嫌いか」
「あの…そう言う…」
「嘘、苦手なんだね」


クスクスと笑うツワブキ ダイゴの声だけが狭い空間の中に響き、私はただこれ以上失態を犯さないよう俯いていた。
クビにならなきゃ、良いんだけど…。


「そんな君に相談があるって言ったら、聞いてくれるかな」
「……相談ですか?」
「そう、因みに副社長命令だよ」
「こ、断れる訳ないじゃないですか…!」


副社長命令で何が“聞いてくれる?”だ!この男、どうやら思っていたよりもずっとタチが悪いらしい。

渋々頷くと、満足気に目を細めたツワブキ ダイゴがスーツから携帯を取り出した。あ、あれ欲しかった最新機種だ…なんか腹立つ。


「ああ、もしもし僕だけど…うん、ちょっと君のとこのミズキちゃん借りていいかな?…彼女に大切な用事があって…大丈夫だよ、今一緒にいるから、じゃあ」
「………は、」


ブツリと電話を切ったツワブキ ダイゴは、今誰と話していた?……君のとこの、借りる…?
まさかとは思うが、この馬鹿副社長ならやりかねない…。


「まさか…私の上司に電話、してませんよね」
「うん、君をちょっと借りようかと思って」
「なっ、今から会議なんですよ…!?何勝手なことしてくれるんですか!!」


そう目の前の権力者に噛み付くと、彼は楽しそうに目を細めて私の髪を撫で、そして囁く。

“会議は欠席、副社長命令だよ”

と。そんな馬鹿気たことを本気で言い出した。今回の会議で私は重要なポジションではなかったにしろ、こんな形で努力が無駄になるだなんて一体誰が予想しただろうか。
もうムリ、我慢の限界。


「……た…」
「ん?」
「アンタ、最ッ低!」


パシン、と乾いた音が狭い空間に響く。驚いたようなツワブキ ダイゴの頬は赤い手形が残っていて、それをまるで漫画みたいだななんて何処か他人事のように思っている自分が、いた。
…これはクビ決定だな。
丁度良い、この際全部吐き出してやろうじゃないの。


「副社長、…いや、アンタなんてアンタでいいわよ」
「思い切ったね」
「さっき私に嫌いかどうかって聞いたけど、本当は会った時からずっと大嫌いだった!」
「やっぱり、そうだったんだ」
「分かったような顔でいつもヘラヘラしてて仕事してる姿なんて見たことないし、作り笑いばかりだし、自分勝手だし…」

そこまで言うと、突然今まで黙って話を聞いていた彼の瞳が揺れる。動揺、してるのか何なのか。もしかして私地雷踏んだ?




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