9-3
「……あの、ダイゴさん」
「ちゃんと髪も乾かしておいで」
「ハ、ハイっ」
「…全く、こっちの気も知らないで」
何やらため息を吐いた音が聞こえたような気がするが、私は今それどころではなかった。
…この人本当に下着まで持って来たんだけど…、私これ意識されてるの?やっぱりミクリさんの勘違いじゃない?
ドライヤーで濡れた髪を乾かしながら揺らぐ心を叱咤する。大丈夫、きっと大丈夫だ。それに元はダイゴさんの我が侭から私は秘書になったのだから、気まずくなったら前のところに戻してくれるだろう。
パシンと思い切り両頬を叩いて気合いを入れ直す。自分の気持ちを誤魔化したままダイゴさんの隣に立つことなんてやっぱり出来ない。
髪の毛はまだ半乾きだったけれど、思い立ったらすぐ行動が私のポリシーなのだ。ギュッと手を握りしめて、私はリビングへと向かった。
「――ダイゴさん、お話があります。」
「寒くない?一応暖房は入れたんだけど暖まるまで時間掛かりそうだよね」
「え、いや、大丈夫ですけど…ってそうじゃなくてですね!」
「……君は僕の秘書だけど、プライベートまで僕を優先しなくてもいいんだよ。ミクリは」
「言っておきますが、副社長がダイゴさんでなければ、私は雨の中わざわざ来たりしません」
「それは、僕が寂しそうに見えて放って置けなかったからかい?」
「…ねえダイゴさん、お願いだから逃げないで下さい。これじゃあ何時まで経っても貴方に近付けない」
「……ミクリから、何か聞いたんだね」
お互いに、目を逸らさずに、体裁を保とうとして散りばめた嘘を取り払いたい。
今まで見ない振りをしていた分だけ、私はちゃんとこの人と向き合いたいのだ。
「ダイゴさん、私――ミクリさんのことは好きでした。でも、きっとそれは恋愛とかそう言う感情じゃなくて、単純に尊敬していたんだと思います。…えっと、つまりさっきは咄嗟に嘘吐いてしまったんですけど…」
つまり、その…。と、つい先程までの気合いはどこへ逃げて行ったのやら、いざ本人を目の前にすると言葉に詰まって上手く話せない。
それに、告白だなんて初めてだったから、まず何と切り出せばいいのかが全くもって分からないのだ。
…いきなり本当はダイゴさんが好きでした、なんて、言えないし…ど、どうしよう。
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