* 恋は盲目 | ナノ



お気に入りのヒールを鳴らして見慣れた廊下を歩いていると、アイツはいた。
複数の女子社員に囲まれて優しく微笑んでいるその男、ツワブキ ダイゴは今まで仕事をしている姿を見たことがないが一応このデボンコーポレーションの社長の息子だと言うことで副社長を任されている。全く、こんなのが次期社長だなんて社長もどうかしていると思う。
いつもいつも違う女に囲まれて馬鹿みたいに微笑むこの男が、私はずっと嫌いだった。

そして最悪なことに、あの集団もエレベーターに乗ろうとしているらしい。
あんな狭い箱の中に一緒に入って耐えれる自信が、残念ながら私にはない。…のだけれど、チラリと腕時計を見るともうすぐで会議が始まってしまう為、非常に不本意だけれども今回は諦めるしかない…か。

心の中で盛大に溜め息を吐きながら、私はツワブキ ダイゴたちよりも先に乗り込んであわよくば扉を閉じてしまおうと早足で鉄の扉へと向かった。


「やあ、おはよう」
「……おはようございます」


のだけれど、ツワブキ ダイゴたちの横をすれ違った時に、あの欺瞞に満ちた微笑みで歩みを止められてしまった。しかも更に最悪なことに、腕を掴まれてしまったため先へと進むことが出来ない。
先程まではただの鉄の扉としか思っていなかったエレベーターが、急にかの箱舟のように神々しく見えてきた。早くこの手を離してほしい。


「眉が寄っているよ、疲れているのかな」
「…今日の会議の準備で忙しくて」
「そうなんだ、お疲れ様」


なんて、私の眉が寄ってる原因は九割方アナタのせいなんですけどね、なんて心の中で愚痴ってみる。
周りの女の視線が痛い上に、もうすぐ会議が始まるのでいい加減に手を離してくれませんか。ツワブキ ダイゴさん。


「…そう言えば、そろそろ会議が始まる時間だね」
「ええ」
「ならそろそろ失礼しようかな」
「それは残念です」


内心、ラッキーと緩みそうになる頬をを慌ててギュッと一文字に結ぶ。すると、何故か隣のツワブキ ダイゴは可笑しそうに笑って私の腕を引っ張った。


「じゃあ、また後でね」


爽やかに取り巻きに別れを告げると、エレベーターのボタンを押す。未だに私の腕を掴んでいることから考えるとどうやら彼は私ではなく取り巻きに別れを告げたらしい。
なんて残酷な勘違いをしてしまったのだろう、呆然と固まる私を見て至極楽しそうに口角を歪めたツワブキ ダイゴにゾワリと鳥肌が立ったのだった。


 


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