* 恋は盲目 | ナノ


8-3

俯く私の目の前に置かれたのは鮮やかな黄色のコーンスープとサラダとビーフシチュー。全部私の大好物だ、と顔を上げるとニコリと笑うミクリさんと目が合った。


「ダイゴから注文されたんだ、僕の秘書はコレが好きだから頼んだってね。」
「…そう、だったんですか」
「そう暗くならないで。ホラ、可愛い顔が台無しだよ。早く食べてしまおう」
「い、いただきます」


サラダをつつきながらダイゴさんのことを考えていると、前の席に座ったミクリさんが口を開いた。


「何があったのか、聞いてもいいかい?」


ふわりと笑う彼に促されて私は先程のやり取りを思い出す、ダイゴさんの言葉が浮かぶ度に胸が締め付けられたように痛んだ。
ミクリさんに、私のこの嫌な感情をぶつけてしまっても許されるだろうか。ぐらぐらと揺れる脳でボンヤリとそんなことを思いながら、私はゆっくりと口を開いた。


「――成る程ね」
「か、勝手にミクリさんの名前を出してしまってすみません」
「気にしなくても良いよ、ただ、少し残念だな」
「えっ、あ、ごめんなさい、あの時は咄嗟に…」
「ねえ、ミズキちゃん。」
「は、い?」
「ダイゴは止めて、私にすれば良い」


持っていたフォークがカチャンと落ちた。いま彼は何と言ったのか、もしかしたら私の聞き間違えかもしれないとミクリさんの瞳を見つめるとフワリと微笑まれる。


「私じゃ、ダメかい」
「――っ」
「君を困らせたい訳ではないんだ…だから、そう泣きそうな顔をしないでくれ」
「そ、そんな顔……」
「ダイゴはね、昔からひねくれていたんだ。」
「え?」


ミクリさんの告白紛いな台詞についていけない私に、彼は目を細めて語り出した。


「親は仕事で忙しくて、友達もアイツの家柄や才能に畏怖して、孤独な少年時代を過ごした。きっと寂しかったんだろうね」
「……ダイゴさん、が」
「だから、無意識のうちに自分が傷付かない選択をしている時があるんだよ」
「………え?」
「アイツ、ああ見えて子どもだから」
「…………」
「自分の本音とか、そう言うのを隠して相手に合わせることとか、わざわざ遠回りなことばかりしてるんだ」
「…それって」
「人一倍、臆病だからね。自分から前に進むことを怖がっているんだと思うよ。」


にこり、と笑ってダイゴって厄介だろう?と紅茶を啜るミクリさんを私はただ見つめていた。
…なんで今の私にそんな話をしたのだろうか、なんて


「ミクリさんは勘違いしていますよ」
「どんな?」
「今の話からしたらダイゴさんがまるで私のこと、…好きだって聞こえます、けど…絶対違いますよ」
「ね、1ついいこと教えてあげる」
「……?」
「ダイゴはね、親友の私すらあの洞窟に連れて行ってくれたことないんだ。大切な場所だからダメだって、いつも断られていたんだよ」



これがどういうことか、解るよね?


ほろりと流れた涙を拭って、私は席を立った。そうだ、私はダイゴさんに会わないと…素直にならないといけないんだから。


「ミクリさん、本当に…ありがとうございました」
「うん、頑張ってね」
「…それで、あの…」
「さっき私が言ったことは気にしなくていいよ、君の気持はもう知ってるから」
「私、ミクリさんのこと好きでした。勝てなくて悔しくて、でも毎日ミクリさんに挑戦しに行くのが…凄く、楽しかったんです」
「うん」
「…また、バトルしてくれますか?」
「フフ、勿論さ。…あとダイゴに愛想尽かしたら、いつでもおいで。」
「それはきっと、ないですよ」
「うん、それが一番だ。それじゃあ頑張って」


とん、と優しい彼に背中を押されて私は一歩前へ進む。
大丈夫、大丈夫だ。そう言い聞かせてモンスターボールからエアームドを出すも辺りはもう真っ暗。


「…もうひと頑張りお願いね」




( 掴めない距離感 )
いま、ようやく縮まった。


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