8-2
どれくらい飛んでいたのだろう、なんてそんなに距離がある訳でもないのに重たい沈黙が続いているせいでずっと長く感じる。
先程とはガラリと雰囲気の変わってしまったダイゴさんを不思議に思ったけれど、きっと彼は自分私が落ち込んでいるから気分を合わせてくれているだけなのだろう、ごめんなさいダイゴさん。
「…もう着くよ、振動があるから気を付けて」
「は、はい」
チラリと地上を見下ろすと、一際大きな家の前に見覚えのある男性が立っていた。あ、あれミクリさんだ、トレーナー時代どうしてもミクリさんに勝てなくて躍起になってライボルトを育てていた思い出がある。…凄く懐かしい。
「ルネも変わってないな」
「…良かったね」
「え、うわっ!?」
ダイゴさんの呟きを聞き取ろうと意識をそっちに向けた瞬間、エアームドがミクリさんの家目掛けて急降下した。いきなりのことに驚いて必死に目を瞑り振動に耐えた。…ダイゴさんもなかなか荒いんだなぁ。
「やあ久しぶり、ダイゴと…君はミズキちゃんかい?まさかお客さんと言うのは君のことだったのか」
「突然お邪魔してすみません、あと…お久しぶりですミクリさん」
「私も君に会えて嬉しいよ、さあ二人とも中へ入って」
「……残念だけど、僕はこれで失礼するよ。急な仕事が入ってしまったんだ」
突然そんなことを言い出したダイゴさんは、申し訳なさそうに笑うとエアームドへ飛び乗った。急な仕事だなんて有り得ない、もしダイゴさんに仕事が入ったというなら私も同行しないといけない筈なのに、どうしてそんな嘘を……そこまで考えてハッとした。
もしかして、私がミクリさんを好きだと言ったから…?
「ダ、ダイゴさん!待って下さい!!」
「今日は無理矢理ごめんね。仕事のことは大丈夫だよ秘書は要らないって言われたから、本当に簡単なことなんだ…ああ、父さんに頼まれてね。だからミズキちゃんはミクリといればいい。…ミズキちゃんも、そっちの方が楽しいだろうし、それじゃあね」
「ダイゴさん!!」
閃光のように飛び立ったエアームドを前に、私の伸ばした手も虚しく空を切るだけとなってしまった。
あんな滅茶苦茶な嘘ばかりついて、私が分からない訳ないのに。失恋の痛みを誤魔化すためについた嘘を叶えてくれようとしてくれた。…やはり私はもうダイゴさんの側にいる資格なんてないんだ。
「今日のダイゴは変だね…あんなバレバレな嘘、私が信じると思うかい?」
「全部…私が悪いんです」
「訳あり、か。外は寒い、中で話そう」
ぽんぽんと頭を叩かれ、じんわりと目頭が熱くなった。
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