* 恋は盲目 | ナノ


7-2

さくさく、さくさく、歩く度に沈む砂浜が楽しくて昔は此処へ来ると走り回っていたな、そんなことを思い出しながら私は一歩前を行くダイゴさんの背中を見つめていた。


「…ミズキちゃんに、教えて欲しいことがあるんだ」
「なんです?」
「前にも言った通り、僕の作り笑いを見破った人間なんて父と友人と、そして君しかいない」
「…そうなんですか」
「あの日ミズキちゃんに聞いたよね、どうして分かったんだって」


確かにそう聞かれた覚えがある。私は何て返しただろう、あの時は頭に血が昇っていて変なことを言ってしまったのではないかと後に続くダイゴさんの言葉にハラハラした。
しかし、それは杞憂に終わったようである。


「ミズキちゃんはね、完璧な笑顔なんてない、目と口が一緒です。そう言ったんだよ」
「……あ、そう言えばそんなこと言った気がします」
「ずっと考えていたんだけどね、今でもよく分からないんだ。」


父さんは、親子だから当たり前だろう。友人は、自分も同じだから匂いで分かる。そう言った。
でも、君とは血縁関係もないし僕と同じだというわけでもない。なら、何故見抜かれたのか。自然であって完璧な笑顔だと自負していたのに。
――そう言い切ったダイゴさんは、まるで不思議でならないといった様子だった。


「…私が入社してまだすぐの話なんですけどね、一人で歩いていたダイゴさんを見掛けたんです」
「うん」
「誰もいなかったからなのか冷たい程の無表情だったんですけど、集団で女の子たちが駆け寄ってきた瞬間に、パッと笑顔になって」
「…でもさ、それは当たり前じゃないかな。一人の時は皆無表情で、人が来ればそれ相応の表情になるし」
「普通の人だと当たり前のソレが、ダイゴさんは凄く不自然だったんですよ」


訳が分からないと言った様子できょとんとしているダイゴさんの目をジッと見つめると、彼はニッコリと微笑む。ああ、だけどこれは嘘だ。


「やめて下さい、作り笑いは嫌いです」
「何でミズキちゃんには分かっちゃうかな」
「…試しましたね」
「試したと言うか小さな頃から笑ってきたからもう癖になっているんだろうな。だからこそ、何故君が分かったのかが分からないんだ」
「…さっきの続きなんですけど、不思議に思った私は暫くダイゴさんを観察してみたんです」
「そっか、嬉しいな」
「え?…じゃなくて、そしたらダイゴさん、いつも同じなんですよ。」
「……同じって言うのは?」
「言いましたよね、完璧な笑顔なんてないって。普通、口元が緩んで次に目元、なんて感じで笑顔になるんですけど」
「………」
「ダイゴさんはいつもいつも決まったように目と口が同じタイミングで完璧な笑顔を作るんですよ。」


まるで型が決まっているかのように、誰かが呼び止めると毎回変わらない同じ笑顔を振り撒く。困ったような笑顔、泣きそうな笑顔、心の底から楽しそうな笑顔。一口に笑顔って言っても色んな表情があるのに、ダイゴさんは決まって同じ。そんなの変に思わない方がおかしいのにどうして取り巻きの皆は気が付かないのだろう。


「嫌いだって言いながら、ミズキちゃんはちゃんと僕のことを見ていてくれたんだね」
「…だってその人をよく見ないで嫌いなんて、言えないじゃないですか」


でも私はダイゴさんを見誤ってしまいましたけど、と呟くと彼は悲しそうに笑った。初めて見る泣きそうなダイゴさんに慌てていると、大丈夫だとやんわりと手で制されてしまう。そうして、何かを決心したかのように彼は小さく息を吸い込んだ。


「――僕にはね、好きな人がいるんだ」



( くっついて、離れる。)


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