6-2
「久しぶりに来たな」
「私もです」
「君と来れて嬉しいよ」
「それは光栄です副社長」
真っ暗な洞窟の中を進む私は、現在副社長のお勧めの場所に案内してもらっていたりする。見たところ相当な石マニアらしいから凄くそのお勧めの場所は気になるのだけれど、さっきから横を歩く副社長の視線が非常に痛い。
え、なにこれ視姦?訴えたら勝てる?
「…あの、副社長」
「それだよ」
「はい?」
「今はプライベートなんだし、僕のことは名前で呼んで欲しいな」
「……え、いや…副社長は副社長ですから」
「でもここは会社じゃない」
「…ならツワブキ、さん」
「ダイゴ」
「ツワブキダイゴさん」
「ダイゴ」
「あの、ツワブキ……」
「新しい職場を探す気は?」
「ダ、ダイゴさん!!」
驚く程爽やかに権力を振りかざした副社…ダイゴさんの衝撃的な発言に思い切り振り向くと、クツクツと笑いを堪える姿が目に入った。私はこんなに焦ったと言うのに、何という人だろう。
「からかうなんて酷いです」
「いや、ダイゴとは呼んでくれないのかな、ってね」
「な、何ですかソレ」
「ダイゴって呼んでみてよ」
「……ダイゴ…さん」
「ま、いいか、それでも」
それじゃあ先に行こうか、ミズキちゃん。と笑った副…ダイゴさんはどこか嬉しそうに見える。あまりプライベートでは親しくなりたくないと思っていた自分は一体何処へ行ってしまったのだろう。
――それからどれ位歩いただろうか、ダイゴさんに腕を引かれ恐らく偶然に出来たのであろう石段を登ると私は今までに見たことのないような光景に包まれ、思わず息を呑んだ。
まるで此処は神聖な場所であるかのように、他の所とは違いドーム状にポッカリと拓けていた。そして、先程まで向けられていた敵意のあるポケモンの気配はもう感じない。
「此処では争ってはいけないんだ」
「…そうなんですか、ポケモンたちにとってもそれほど神聖な場所なんでしょうね」
「それと、ホラ。もう懐中電灯は必要ないよ」
「ほ、本当だ…」
ダイゴさんによって電源を消された懐中電灯を地面に置いて辺りを見回すと、何処からか射し込む淡い日の光に照らされて、本来ならば深く暗い洞窟の奥底でひっそりと息を潜めている筈の鉱石たちはキラキラと輝いていた。その光景は陳腐な言葉では言い表せない程に幻想的でゾクゾクする。
「少し見て回るといい」
「ありがとうございます!」
「はしゃぎ過ぎて転ばないようにね」
「はーい!」
僕は喜ぶミズキちゃんを見ているだけで十分だよ、なんて言って最初は優雅に石に腰掛けていたダイゴさんだけれど、それも5分と我慢出来なかったようで今は私と一緒になって鉱石を光にかざしたり、岩によじ上ってみたりと大忙しだ。
「ダイゴさんダイゴさん!」
「どうしたんだい?」
「此処に連れてきてくれてありがとうございました、凄く、素敵な場所ですね」
「ミズキちゃんが楽しんでくれて良かったよ」
「本当に、こんなに楽しい休日は久しぶりです!」
こちらこそ、ありがとう。そう言って穏やかに笑った彼に、自分の中でゆっくりと何かが溶けていくのを感じた。
( 誤解という名の境界線 )
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