* 恋は盲目 | ナノ


5

ツワブキ ダイゴ、彼を知れば悪人ではないということは良く分かる、しかし今まで感じてきた嫌な印象もそう直ぐには拭い取れるものではないし、どちらかと言えば大嫌いだったのが普通にレベルアップした程度の感情なのだ。
だからプライベートで仲良く、なんて御免だし仕事以外での関わりなんて持ちたくもなかった。そう、本当は持ちたくなんてなかったのに。

――私は、誘惑に負けてしまった。


「うわ、これ、これ!シロガネ山の石なんですか!?あ、こっちはオツキミ山だ!」
「詳しいんだね、…あれ、もしかしてミズキちゃんも」
「自他共に認める、石マニアです!」


えへん、と胸を張って副社長に向き直ると彼は驚いたように暫く固まって瞬くこと数回、しかしその後直ぐに嬉しそうに顔を綻ばせて私の両手を包み込むようにギュッと握った。いつもの私なら思い切り振り払っていただろうけれど、今は違う。
石マニア、あまり世間では評価されることの少ない、どちらかと言えば影の薄い趣味である。つまり、同志に巡り逢える機会なんて滅多にないのだ。


「ミズキちゃんは今までどんな洞窟に?」
「ホウエンと、昔旅していたシンオウはほぼ網羅しました。副社長は」
「僕はホウエンとカントー、ジョウトを少しとシンオウはこれからなんだ」
「そ、それで、シロガネ山の内部はどんな感じでした…?」
「とても幻想的だったよ、なかなか人は入れない場所だから、まだ綺麗な状態で残っていてね。…ああ、写真があるから見せてあげる」
「写真!!まさかこの目でシロガネ山の石達を拝めるなんて!」


副社長の持ってきたアルバムを開いて、二人で覗き込む。ペラペラと厚いページを捲ってゆくと、綺麗な文字でシロガネ山内部と書かれた付箋が貼り付けてある箇所を発見した。
一枚目の写真にはまだ早朝なのか靄の奥にボンヤリと映る一面が雪化粧の施されたシロガネ山の全貌が絶妙なアングルで収められている。


「…凄く綺麗」
「初めて見た時は感動したよ」
「う、羨ましい。でも立ち入り許可されるなんて副社長も強いんですね」
「うーん、まあまあかな。それよりホラ、次は内部なんだけど、ここの洞窟が…」
「わ、すっごい!」


次々に披露される貴重な写真の数々にまるで女子高生のようにワイワイ騒ぐ私たちが正気に戻ったのは、それから一時間後のことだった。

 

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