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「おめでとう、今週1位のMEZZO"さん。」
「ありがとうございます。蒼さんの曲があったからです。蒼さんの曲につられるようにして、僕達も頑張れたんですよ。」
「そう?なら良かった。私達の仕事は、歌い手の良さを引き出すことだからね。お互い良い仕事が出来たって事かな。」
「教えてくれますか?何故、音楽の道へ進んだのか。」
「あんまり面白い話じゃないけど、いいよ。教えてあげる。」
「元々は、全然関係ない分野の学科で大学に通っていたんだ。」
「え!?」
「子供の頃から音楽は色々やって来たけど、なんせ将来が保証された世界じゃないからね。親は、趣味として続ける分にはいいけれど、それで生きていくのには反対だった。でもある日、フラッと遊びに行ったライブハウスで、あるミュージシャンの歌を聴いたんだよね。」
「あるミュージシャン・・・・・・」
「逢坂聡って、人。」
「え・・・・・・!?それ、僕の叔父です!!!」
「やっぱり!?同じ苗字だし、壮五君の歌を聴いてると、どこか同じものを感じたからまさかとは思ったんだけど・・・・・・。」
「話、続けてください。」
まさかのおじさんの名前に、僕は驚き過ぎて嬉しい気持ちを通り越してしまった。信じられない、の一言しか頭に浮かばない。蒼さんの曲を聴いて、いつも感じていたおじさんの音楽。それがこんな形で繋がっていただなんて。この業界は時々僕が想像できる範囲を軽く越えてしまうことばかりだ。
「正直あまり売れてなかったけど、カッコよかった。どうやったら売れるかなんて商業路線とか、そういった計算なんて何もなくて。ただ純粋に“俺は歌いたい歌を歌っているんだ!自分は音楽をやっていて幸せなんだ! ”って、伝わってくるんだよね。」
「おじさん・・・・・・。」
「それを聴いて、私もやりたい事をやらなきゃダメだって思った。将来の保証なんてなくても、音楽で頑張ってみたい。本当に自分のやりたい事をやる、そう思ったの。」
「おじさんは、家族中から音楽活動を反対されて・・・・・・。亡くなった時も、みんな音楽なんてやらなければ、普通に生きていれば幸せだったのにって・・・・・・言っていたんです。やっぱり叔父さんは・・・・・・音楽をやっていて本当に幸せだったんだ・・・・・・!!」
「それからは、大学を辞めて必死になんとかここまでやって来たよ。アレに励まされながらね。ほら、そこ。逢坂聡のCD。ライブでの手売りだったから、今はもうちょっとやそっとじゃ手に入らないはず。持っていきなよ。壮五君が持ってるべきだと思う。」
「いいんですか!?あ、ありがとうございます・・・・・・!!僕は、おじさんが夢みて追い続けた音楽を、おじさんは幸せだったんだということを、証明したかったんです。それで、この世界にきた。まさかそこでこんな風におじさんの残した音楽に出会えるなんて・・・・・・。」
「フフッ、おじさんも壮五君も、そういう運命なんじゃない?素敵だよ。」
「このCDも、それに蒼さんからいただいた楽曲も、宝物です・・・・・・大切にします!!」
泣きそうな気持ちになりながら、おじさんの歌を聴いてくれたのが蒼さんで良かったと心からそう思った。おじさんが遺したメッセージを受け取って、そして受け取ったものを今度は自分のメッセージに変えて発していく。2人とも、かっこいいと思ったし、僕もまた胸を張って頑張りたいと思った。
今日、ここに来れて本当に良かった。
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「すみません、随分長くお邪魔しちゃって・・・」
「いいよ。こちらこそ素敵な話聞かせて貰えたから。」
「また、その・・・・・・遊びに来てもいいですか?」
「仕事が立て込んで忙しい時期じゃなければね。なんにもおもてなしできないけど、またおいでよ。」
「ありがとうございます。それでは、お邪魔しました。」
「はーい」と見送る蒼さんの声を、バタンと分厚い防音壁のドアが閉じ込めた。
それと同時に、僕は僕の中で芽生えてしまった事に気付いた一つの想いを、バタンと重く閉じ込めることにした。
憧れ、尊敬、そんな感情だけじゃない。
恐らくもっとドキドキして、もっと厄介なそれは。
そんな簡単に育てていいものじゃない。
「きっと、おじさんの話で興奮し過ぎちゃっただけだ。」
今の所はそう都合よく言い聞かせておこう。
自分の中に閉じ込めておくのは、苦手じゃないから。
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