3 恋人になりませんか?







「それで、ほとんど・・・・・・何も覚えていないと。」
「本っっ当に申し訳ありません!酔っていたとは言え、女性の身体を弄んだ上に記憶に無いございませんなど、始末の出来ない政治家と同じだと罵られても弁解の余地もございません・・・・・・!!」
「いや何もそこまで・・・・・・逆にいやらしい言い回ししている事、気づいていますか?」
「各なる上は、どんな処罰でも喜んで受けさせて頂きたく存じます。僕の小指・・・・・・いや、坊主?ありきたりだ・・・・・・アイドル生命、そうですか・・・・・・分かりました・・・・・・。僕、今日から普通の男の子に戻らせて頂きます・・・・・・。」
「言ってない言ってない、言ってないですよそんな事。大体、酔った勢いでーなんてそんな珍しい事じゃないですよ、昔からよくある話です。あんだけ酔っていても、一応付けるモンちゃんと付けてくれたんだし、まぁお互いの同意の上で?って事でいいじゃないですか。」
「相良さん・・・・・・僕と歳そんなに変わりませんよね?」
「24だけど?それと、蒼でいいですよ。」
「どんな経験してきたんですかあなたは・・・・・・!?女性なんですから、もっと自分の身体を大事にしたほうがいいですよ!?」
「酔ってやらかした上に記憶にない始末の出来ない政治家のようなアイドルには言われたくありません。」
「やっぱり、これしかないな・・・・・・今この場で切腹します、介錯を・・・・・・」
「そういう無意味な所で潔の良さと武士道精神発揮しないでくれますか?」









壮五さんは相変わらず青い顔のまま、まるでこの世の終わりを待つかのように項垂れている。あまりにも反応が純朴だったので、私は冷めた態度を全面に出しながらもこの受け答えを楽しんでいたのだけど、ちょっといじわるだったかもしれない。

壮五さんが真面目な男の子なのだ、という事はよく分かった。
真面目も度が過ぎて、極端な発想に至ってしまってる節はある気がするけれど、私にしてみればRe:valeとIDOLiSH7がわりと仲良くさせていただいている以上、またどこかでIDOLiSH7と一緒になる事もあるかもしれないのだから、その時に気まずくならないようにこの場を去れればそれで十分だと考えていた。
何より、切なげに、それでいて内側から欲の塊が燃えているようなあの目が紫の光を放ったのを見て、思わず許してしまったのは私なのだ。完全なる同意の上ではないか。








「本当に、あまり気にしないでください。私別に怒ってませんし、恨んだりもしてませんよ。お互い仕事が仕事なので、昨夜の事も内密にしてくれるのならそれでいいです。すみません、そろそろ仕事に向かわなければならないので。またお仕事でご一緒する機会があれば、是非仲良くしてくださいね。普通に。」
「蒼さん・・・・・・。」
「はい?」
「恋人に、なりませんか?」







何て言った?
ちょっと待て今何て言った?







「だから、その・・・・・・順番は逆になってしまったかもしれないけれど、ちゃんと責任を取らせて欲しいんです!」






この人は一体何を考えているのだろうか?
恐ろしく今の時代にそぐわない。
お坊ちゃま育ちって、みんなこうなのだろうか。





「ちょっと待って、それってどういう事?新手の告白?」
「いくら蒼さんが許してくれても、このままでは僕は申し訳なくて気が済みません。蒼さんが僕の恋人になってくれたのなら、身体の関係を持つのは自然な事でしょう?」
「だから待ってよ、子供が出来たわけでもあるまいし、順序どうこう言うのなら尚更。私は別に恋愛がしたくて壮五さんと寝たわけじゃないんですから。そんな斜め上を行く様な謝罪と責任の取り方を提案されても・・・・・・。」
「お願いします、必ずや蒼さんを幸せにしてみせますから!」
「それどこのお父さんに向かっていうセリフですか。」
「お友達は省略して、恋人から始めましょう。」










そう言って深々と頭を下げ、手を差し出してきた壮五さん。目はぎゅっと瞑られ、唇を噛み締めている。必死さが伝わってくる。最初このおかしな提案を聞いた時には、どこまでが本気なのかと疑った。しかし彼は実際、相当に本気なのだろう。
ここまでくると、昨夜の出来心から相手を傷つけてしまっているのはむしろ自分のような気がしてきた。

恋愛をしたことがないわけではない。
それなりに経験だってある。
だから分かる。
恋愛は楽しいばかりではない。
むしろめんどくさい事の方が多い。
目の前に差し出された震える手を突っぱねた所で、彼は今後私を困らせるような行動をするとは思えない。
断る事は簡単だ。

けど。

ふと興味が湧いたのだ。
普段の彼の、控えめで真面目な表情。
酔って甘えん坊のワガママお坊ちゃまと化した表情。
今ここで見せている常識を覆すようなおかしな発想。
そして、あの目。

壮五さんはまだ顔を上げない。
煙草を一本取り出す。
火をつけて大きく深呼吸。
私の頭も今、モヤがかかって何か感覚が麻痺しているのかもしれない。






「分かった。じゃあ、恋人から始めましょう。」








壮五さんの手を取った。
あまりにも満足そうな顔をして笑うその顔は、まるで巨額が絡んだ交渉が成立したビジネスマンみたいで思わず笑ってしまった。
今回の企画と昨夜で得た戦利品。
それはこのおかしくて可愛い年下の男の子だった。












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