1 酔ってそのまま




「それじゃ、百貨店コラボ企画の成功を祝って、乾杯っ!!」







百の明るい声と、乾杯を鳴らし合うグラスが響く。

ここは都内某所、有名ホテルの一間。
Re:vale、TRIGGER、IDOLiSH7という今をかける男性アイドルグループ3組と、有名百貨店のコラボ企画の打ち上げ会場だ。
さすがにこれだけの面子が揃えば、参加者はそうそうたる顔ぶれ。アイドルの彼らだけでなく、百貨店の経営陣重鎮から世界的に有名な写真家、コラボ商品に携わったデザイナー、商品の制作を担当したメーカーの役人。
そしてその塊の隙間をパラパラと埋めていくような、現場スタッフ。今夜ここに参加している中で、自分は正直下っ端の下っ端の、そのまた下っ端くらいなのだろう。芸能界。華やかな世界とは面だけで、それを影で支える存在への扱いというのは所詮こんなものだ。ただ、それを望んだのは自分自身。別に文句は無いし、私にとってこの場所に居られること自体が奇跡のようなもの。それなりに名を売って媚び売って、またこういった場に来ることが出来るようせいぜい頑張ろうではないか。

相良蒼、24歳。
私の職業はスタイリストだ。
ファッションの専門学校を出て、運良く知り合った先輩の元でアシスタントとして学びながら働いていた時、先輩が専属スタイリストとして担当していたあのRe:valeに、女性向け雑誌から企画のオファーが来た。過労からたまたま体調を崩した先輩の選手交代を引き受け、私がスタイリストを請け負ったその企画が運良く大当たり。好評価を得てRe:vale本人から気に入って貰えた私は、そのままRe:valeのスタイリストを担当することになり、運が向いているうちにとつい半年前にフリーランスとして独立した。
スタイリストは皆それぞれ自分の得意とする分野を決めている。ある人はドラマや映画などを中心に、またある人は雑誌を中心にとそれぞれ活動している。もちろん何でもこなす人もいるけれど、私はRe:vale専属という事もあってRe:valeを中心に、他の仕事も請け負いつつ雑誌、そしてプロモーションビデオなどの面で忙しく駆け回らせてもらっていた。








「あの、この度は僕達IDOLiSH7がお世話になりました。」
「壮五さん!こちらこそ、楽しく仕事をさせてもらいました。ありがとうございます。」
「みんなとても賑やかだから。僕、たまに相良さんが担当した企画のコーディネートとかチェックしてるんです。小物の使い方が上手いなーと思って、お恥ずかしながら参考にさせてもらっています。」
「そんなかしこまらないで。蒼でいいですよ。私もまだまだ新人の部類なので。それにしても嬉しいな、そこまで細かく見てくれているなんて。さっきから壮五さん挨拶に回ってばかりみたいだけど、ちゃんと飲んでます?」
「いえ、大丈夫です、その僕はお酒は・・・・・・」
「あれ、この前Re:valeとIDOLiSH7で飲んでましたよね?」
「まぁ・・・・・・飲めないわけでは無いのですが・・・・・・」
「じゃあ飲みましょ?せっかくのお祝いの席なんですし!」






逢坂壮五は決して飲めないわけでは無かったのだ。
ただ、飲むと手が付けられなくなるだけで。
挨拶回りもひと段落し、かと言って御偉方の中に溶け込める程の立場でも無い。一言でいうと暇していた私は、タイミング良く現れた壮五さんを、酒の相手に選んでしまった。まさか酒の相手だけで済まなくなるとも知らずに。


「ぼくもー、蒼さんにー、きかざられたいなー、ふふふー。」
「きょねんもまいたマフラーじゃないよー、ことしのしんさくだよー。しんさく、しんさくー!」


なんだコイツは。
なんだこの可愛いのは。
普段との差が激しすぎるギャップに思わずキュンとしてしまうではないか。大して母性があるわけでもないが流石にこれは揺さぶられない方がおかしい。
意味不明な会話から次第に身体が傾き、いよいよ立っているのも厳しくなってきた壮五さんをどうにかしなくてはと思った私はIDOLiSH7のリーダーである二階堂さんへと声をかけたが、彼もそれなりに回っているらしく「それなら今夜の玉座は蒼さんだから、大人しく観念して乗っけときなさい。」とやる気のない返事を返されてしまった。乗っけとけって、どう言う意味だ。今日は立食形式。おぶっていろとでも言うのか。日頃重たい衣装や小道具抱えて移動している私でも、流石の成人男性は抱えて歩けない。何か、何か休める所は。

このままこのホテルに彼をぶち込めばいいのかとも思ったが、こんな一流ホテルを使えるほど私はリッチではない。一応と思い、壮五さんに聞いてみる。すると壮五さんはニコニコしながら(正確にはフラフラしながら)フロントへ向かい始めた。フロントマンが内線で誰かを呼び出しているようだが、大丈夫だろうか。


「支配人お久しぶりです。いつもお世話になっています、FSCの逢坂です。ちょっと訳があって、父には内緒で今夜利用させていただけませんか?」


ほんの気持ちシャキッとした雰囲気で支配人に挨拶をする。そう言えば百が言っていた。壮五さんはあの大企業ファイブスターカンパニー、通称FSCの一人息子なのだと。
元お坊ちゃまの権力のおかげで、まさかの顔パス状態で部屋へと案内してもらえることになった。案内された部屋は予想通り豪華なもので、私は少々落ち着かないけれど、私が泊まるわけではないので気にしない事にした。




「壮五さーん、ほら、超スイートルーム着きましたよー、さっさと離れてベッドでお休みになってくださーい。」




まるで介護士か何かのような言い方で、壮五さんを引き剥がそうとする。
が、帰ってきた答えは。





「やだー。やだやだ、蒼さんもいっしょにいるのー」
「は?」
「ぼくをひとりぼっちにするつもりー?いじわるなひときらいー。」
「いや知らねーよ。」
「いっしょにいるのー!ねむいのー!」
「めんどくせーな・・・・・・ほら、離れて、さっさとベッドに・・・・・・って、わぁ!!」





私も多少酔いが回っているせいか、引き剥がそうとした壮五さんの体重に引っ張られてベッドに倒れ込む。酔っ払いが重く感じるのは何故なのだろう。身体を起こそうとしたその時、ボフッと壮五さんがダイブしてきた。






「あははー、蒼さんやわらかーい。あんしんするねー。」
「私には不安しか無いのだけど・・・・・・」
「ぼく、なんだかあつい。」
「勝手に脱いで。そして早く馬乗りどいて。」
「てつだって。スタイリストさんでしょー?ぼく、ぬげない。」
「君何かスタイリストを勘違いしてるね?」
「はい、まずはすとーるとってー」
「・・・・・・」
「ボタンはうえからだよー」
「っ・・・・・・こいつ」





重ね着をしている壮五さんを一枚、また一枚と脱がせていく。私は一体何をしているのだろう。今をかけるアイドルに、年下の男の子に、酔っ払いに。払い除けることはできる、はずだと思う。私も酔って人肌恋しくなっているのか。この甘えん坊お坊ちゃまの言いなりになっている自分がだんだん馬鹿らしくなってきた。そうか、最初からそのつもりなのか。今までにもそれなりに経験は重ねてきたが、これも誘い込む手口の一つなのか。なるほど、二階堂さんが言っていた「乗せとけ」ってそーゆーことか。

もうめんどくさい。





「蒼さん、へんたいだねー。ふくぬいでるー。」
「脱がせてる本人の壮五さんに言われたくないかな。」
「ふふふー、蒼さんの肌、きれーだ。」
「それはどうも」
「ぼく、ずっとお話したかったんだよ?りばーれがうらやましかったんだあ。」
「何?」





いつの間にか着ていたシャツのボタンが剥がされていた。
首筋、鎖骨、胸へと壮五さんのキスが降る。
しばらくして、彼が私の目をじっと見た。





「僕のものになってよ」





そう言った壮五さんの目は、甘えん坊お坊ちゃまではなく確かに「男の目」をしていて。私はどきりとしたまま動けなくなった。まともに会話をしたのは今日が初めてだ。私は彼のことをまだほとんど知らないのだろう。でも、その目から視線を逸らすのが惜しく思えるくらいに、綺麗だったから。早まる心臓の音をゴクリと飲み込むようにして、頷いた。





「いいよ。」












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